07
グラウンドでミライドンにサンドイッチを食べさせた後、またしばらく本を読んで過ごすことにする。
今度は別の本を呼んでみようと本棚を見て回っていると、突如校内アナウンスを告げるチャイムが鳴り響いた。
"シオンさん。至急、校長室までいらしてください"
声の主は、先程まで話をしていたクラベル校長その人。
校長室に呼び出しだなんて、知らない内に何かしでかしてしまったのかしら?
スター団員とバトルしたことへのお叱りかもしれない。
胸の内に不安なものを抱えながら、私は校長室へと急いだ。
「失礼します」
ドアをノックして、恐る恐る室内へと入る。
正面にはクラベル校長が座っていて、私と目が合うと"よくいらっしゃいました"と言った。
怒っている風には見えない。むしろ穏やかな笑みを浮かべている。
「あ、あの……何か校則違反になるようなことをしてしまったのでしょうか?」
「いえ、そういったお話ではないので安心してください」
(良かった……)
叱責ではなかったことに、ひとまず安堵の息を零す。
そもそも彼がそのつもりならもっと早く呼び出していただろうし、食堂であんなに和やかに話をしていないだろう。
勝手に早とちりしてしまったのは、少し恥ずかしいわ……。
「先程食堂でお話できれば良かったのですが……。
少し事情がありまして、校長室まで来ていただいたのですよ」
「何でしょうか?」
「私の友人が、あなたに大事なお話があるそうです」
「校長先生のご友人が……?」
その言葉を聞いて室内をキョロキョロと見回すけれど、それらしい人物の姿は無い。
困惑している私を見て、クラベル校長は"どうぞ、こちらへ"とモニターの前で手招きする。
彼がリモコンを使ってテレビ電話を繋げると、画面に1人の男性が映りこんだ。
《ハロー、シオン。初めまして。
僕はフトゥー。パルデアの大穴・エリアゼロにてポケモンの研究をしている》
フトゥー……その名前を聞いて、私の中で衝撃が走る。
じゃあ、この人がペパーさんのお父様……!?
「彼は我が校の卒業生で、素晴らしい博士なんですよ」
「そうだったのですね。……ご機嫌よう、フトゥー博士。
こうしてお話できるなんて光栄ですわ」
《よろしく。では早速本題に入るが……単刀直入に話そう。
学生番号805C393、シオン……。君はミライドンという不思議なポケモンを連れているな?》
「えっ……? はい、その通りですが……」
《正直な情報提供、大変感謝する》
どうして私がミライドンを連れていることを、彼は知っているの?
エリアゼロから逃げ出してきたって言っていたし、本来彼のところにいなくてはいけないポケモンとか?
疑問と不安が顔に出てしまっていたのだろう。博士は"責めるつもりはないよ"と言ってくれた。
《ただ、君に協力して欲しいことがあってね》
「協力?」
『フトゥー博士!』
「キャッ!? えっ……あ、ミライドン」
いつの間にかボールから姿を見せたミライドンが、画面に映る博士を凝視する。
博士はモニター越しに、ミライドンの元気な姿を喜んでいるようだった。
「あの、博士……"協力"というのは?」
《ミライドンは、僕が管理していたポケモンでね。
君がペパーという青年から受け取ったであろうボールも、元々は僕のものなんだ。
しかし今、僕はそのポケモンを管理できない状況にいる。シオンには引き続き、ミライドンを可愛がって欲しい。
……引き受けてくれるだろうか?》
「えぇ、それはもちろん。私で良ければ是非お世話いたしますわ」
《そう言ってもらえると助かるよ》
博士はその後、今のミライドンの状態について教えてくれた。
ミライドンは今弱っていて、戦闘能力を失っていること。移動に特化した"ライドフォルム"にはなれそうだということ。
そして持っていた能力を完全に取り戻すには、かなりの時間を必要とすることも。
ならあの時ヘルガーたちを追い払えたのは、一時的とはいえ戦闘に特化したフォルムになれたからだったということになるのかな。
《僕の連絡先をスマホに登録しよう。スマホロトムを出してくれたまえ》
「はい、分かりました」
博士の遠隔操作により、彼の連絡先が登録される。
今後は状況確認のために、定期的に連絡をさせて欲しいと言われたので了承する。
別れの挨拶と同時に、モニターの画面が真っ暗になった。
『博士! ……消えちゃった』
「……いつかまた会えると良いわね」
『うん……』
どこか寂しそうにしているミライドンの体をそっと撫でる。
その隣でミライドンを見たクラベル校長が何か呟いたような気がしたけれど、よく聞き取れなかった。
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