06
「……ふぅ……ごちそうさまでした。若葉も、もう食べ終わった?」
『うん、お腹いっぱい』
『シオン〜、オレにもサンドイッチ早く〜!』
「フフッ、ちゃんと分かってるわ」
天気も良いしグラウンドに行っても良いかもしれない。
そう思いながら席を立った時、スマホロトムから着信音が鳴った。
さっきペパーさんと連絡先を交換したし、何か忘れ物だろうか?
「もしもし?」
《……シオンだな?》
スマホロトムから聞こえてきたのは、明らかにペパーさんのものとは違う声。
変声機か何かを使っているかのような……そんな声だった。
「……どなたでしょうか? それより、何故私の連絡先を知っていらっしゃるの?」
《私の名はカシオペア。あなたのことは知っている。ポケモンバトルの高い素質を持つトレーナーだと》
私の連絡先はネモとペパーさんにしか教えていない。
もしかして……スマホロトムがハッキングされている?
「何の目的があってこのようなことを?」
《あなたのその腕前を見込んで頼みたいことがある。……スター団を知っているな?》
「スター団……」
先程、階段下でバトルをしたスター団員の2人組を思い出す。
本音を言えば関わり合いになりたくはないのだけれど……。
「えぇ、一応。このアカデミーの一部の学生が所属する不良グループと聞いています」
《話が早くて助かる。……彼らはアカデミーの風紀を乱し、周囲に迷惑を掛けている。
そんな彼らを……私は放って置くことができない!
よってあなたには、スターダスト大作戦に協力して欲しい》
「スターダスト大作戦……?」
確かに彼らのしていた勧誘や、バトルも辞さない手段は強引なものだった。
現にボタンさんも困っていたし、周りに迷惑を掛けているというのは間違いない。
しかし、何故転入したばかりの私にそんな話をしてくるのだろう?
ペパーさんにも言ったけれど、私ではなくても他に頼れる人はいるはずだ。
《スターダスト大作戦はその名の通り、スター団を星クズに変える……分かりやすく言えば解散させる作戦だ。
この計画には同士が必要……あなたにも力を貸して欲しい》
「……」
すぐに答えが出るはずもなかった。
話し方がかなり仰々しい上に、"カシオペア"という名が偽名の可能性も否めない。
自分の正体を隠している相手の話を、簡単に信じても良いものなのか……。
《……返事は今でなくて結構。詳しい話はまた後日させてもらうことにする。
今日のところはこれで》
「なっ……! お待ちなさい、まだ協力するとは一言も……!」
私の言葉を遮るようにプツッという音が聞こえ、その後に続いたのは通話終了の音。
一方的に電話を切られたという事実に、私は呆然とするしかなかった。
「な、何だったの……?」
『変な電話だったね。あんまり気にしない方が良いと思うよ』
「そう、ね……」
さっきのことはひとまず忘れよう。
スマホロトムをポケットに入れて食堂を出ようとすると、不意に扉が開いてクラベル校長と鉢合わせた。
「おや? どうも、シオンさん」
「あ……校長先生。ご機嫌よう」
「校内でのスマホ通話は、もう少し小さな声でお願いしますね。
大切な個人情報が聞かれてしまうと危険ですので」
「申し訳ございません。以後、気を付けますわ」
確かに少し大きな声を出してしまったし、個人情報が流出するのはいただけない。
謝罪の言葉と同時に頭を下げると、クラベル校長は"今の時代、気を付けることが多くて大変ですね"と苦笑いを零す。
彼に会釈をし、今度こそ私たちは食堂を後にした。
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