05
「それで、私に何かご用だったのではなくて?」
「用っつうか……頼みたいことがある。俺の野望のために、お前の力を貸してくれ!」
「……え?」
突如として彼が口に出した、"野望"という言葉。
それに疑問符が浮かぶのを感じながらも、私は話の続きを促した。
「意外かもしれねぇけど、俺ピクニックが好きでさ……料理すんのも得意なわけよ。
んで今は、ポケモンを元気にする健康料理を研究してんだ」
すると彼は、リュックから紫色の本を取り出した。
「それは……バイオレットブックですか?」
「お、よく知ってんな。世間じゃただのオカルト本扱いなのによ」
「先程、エントランスで読みましたので……」
「なら話は早い。この本の中に、"秘伝スパイス"って食材のことが書いてあっただろ?
俺はどうしても、そいつを手に入れないといけねぇんだよ」
秘伝スパイス−−。
バイオレットブックの記述では、ポケモンに与えると素晴らしいほどの滋養強壮効果を発揮する食材だと確かに書かれていた。
しかしエリアゼロの外へ持ち出したらしい5種類のソレは、ポケモンに食べられてしまったために研究・栽培を断念せざるを得なくなったとも。
「ですが、秘伝スパイスは強力なポケモンが守っていると……。
私では足でまといになりますし、ネモに頼んだ方が良いのではなくて?」
「生徒会長か……。確かに強ぇけど、アイツに頼むのは何か癪なんだよな。
かと言って俺はポケモンバトル得意じゃねぇし、だからこそあの時俺に勝ったお前に頼みたい。
その代わり秘伝スパイスが手に入ったら、美味いサンドイッチ食わせてやるからさ。頼む!」
「え、っと……」
『どうするの、シオン?』
顔の前で両手を合わせているペパーさんを前に、どう返事したものかと思案する。
ここまで必死に頼み込んで来るのを見てしまったら、"否"とは言えない。
とはいえ直ぐに頷くには実力が不足し過ぎている。今の私には、曖昧な返事しか返せなかった。
「少し、考えさせてください……」
「おぅ、良い返事待ってるぜ! とりあえずヌシのいそうな場所、マップに登録しておくな」
ペパーさんは残りのサンドイッチを食べ終えると、"じゃあな"と言って食堂を後にした。
彼が何故あそこまで秘伝スパイスを求めるのかは分からない。
でも、ひとまずその疑問は自分の胸の内にしまっておくことにしたのだった。
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