04
食堂に入ると、お昼時ということもあって多くの学生で賑わっていた。
調理師のおば様にお願いしてサンドイッチを買い、空いている席が無いか探す。
ふと、窓際にどこかで見た後ろ姿があった。
その方は私の存在に気付くと、"よぉ"と片手を上げた。
「また会ったな。俺のこと、覚えてるだろ?」
大きなリュックに、片目を隠すほど長い前髪。
この方、あの時灯台にいた……!
「あなたは確か……ペパーさん」
「そうそう、流石の記憶力ちゃん……って、何で後退りするんだよ?」
ジリジリと少しずつ後退していく私を見た彼が、不思議そうにそう問い掛けてくる。
あの灯台でミライドンに対する態度を見ていたのもあって、私は彼に苦手意識を感じてしまっていた。
だって、その……あまり良い印象とは言えなかったもの。
彼も思い当たる節に行き当たったのか、バツが悪そうに頬を掻いた。
「あー……その、なんだ……。
灯台ん時は悪かったな。詳しいことは言えねぇけど、俺も色々と事情があるんだよ」
「いえ……」
あまりにも気まずそうな表情を浮かべる彼を見て、もしかして悪い方ではないのかも? と思ってしまう。
ネモが彼のお父様の話題を出した時に嫌そうな顔をしたのは、親子関係が上手くいっていなくてそういう態度になってしまったのかしら……。
私自身もお父様・お母様とは、お世辞にも良好な関係とは言えなかった。
どちらも良く言えば教育熱心、悪く言えば厳し過ぎる両親だったから"自分の時間"なんてほとんど無かった。
面と向かって反抗したことはないけれど、そんな両親に不満を持っていたのも事実で。
だからなのか、彼に対して少し親近感を感じ始めていた。
「自己紹介がまだでしたわね。私は……」
「あぁ、名乗らなくて良いぜ。シオン、だろ?
生徒会長とつるんでるって噂で持ち切りだからな」
「え……」
ということは、もしかしなくても有名人ということに……?
やっぱりスター団の人とバトルしたのが目立ち過ぎていたのだろう。あの時、確かにネモもいたから。
「とりあえず、飯食いながら話そうぜ」
ペパーさんと一緒に空いた座席へ座り、先程買ったサンドイッチを取り出す。
若葉もボールから出てきて美味しそうに頬張って食べ始めた。
ちなみに、ミライドンには後で食べさせてあげると約束している。
若葉の満足そうな表情を見て、私もサンドイッチにナイフを入れようとした時だった。
「はあっ!?」
突然隣で上がったペパーさんの大声に思わず肩が跳ねる。
彼の視線は私に……正確には私の手元に向けられていた。
「あの、どうかしまして?」
「いや、どうもこうもねぇよ!
サンドイッチっつったら、普通は手で持って食うもんだろ!」
「え、そうなのですか?
でも大口を開けて食べるだなんて……はしたないと言いますか、恥ずかしいですわ」
「さてはお前、"お嬢様"ってやつか?
サンドイッチは直接かぶりつくのが1番美味ぇの! ナイフとフォーク使う奴なんて初めて見たわ……」
彼にそう言われ、改めて周りの学生たちをチラリと見やる。
確かにサンドイッチを食べている人たちの中で、カトラリーを使っている人は1人もいなかった。
今は両親やばあやたちの目も無い訳だから、少しくらいお行儀が悪くても……良いよね?
お皿に乗っているサンドイッチを両手でそっと持って、"はむっ"と1口。
素朴ながらもしっかりと存在する食材の美味しさが、口の中に広がった。
「美味しい……」
私の呟いた言葉に、ペパーさんが"だろ?"と笑う。そして自分の分のサンドイッチを美味しそうに頬張り始めた。
やっぱり男の人だからか1口が大きい。彼の連れていたホシガリスのように頬袋が膨れているのを見て、思わず笑ってしまった。
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