03
まず最初に訪れたのは職員室。
顔合わせはもう済ませているけれど、ご挨拶くらいはしておかなきゃ。
"失礼します"と言ってドアを開ける。日当たりの良い室内にはたくさんの人がいた。
「オー、親愛なるシオン! ご機嫌はいかがであろうか?」
オシャレなスーツを着こなし、頭部の剃り込みが特徴的な男性が声を掛けてくる。
あの方は確か、言語学の……。
「ご機嫌よう、セイジ先生。お日柄も良くて何よりですわ」
「HAHAHA、そうね! 絶好のシエスタ日和だわな!」
ホッ……良かった。間違ってなかったみたい。
そういえば顔合わせの時、"誠実のセイジ"とジョークを交えながらの自己紹介を受けたのだっけ。
誠実のセイジ……うん、覚えた。
「ところで、何かハプニン? ワシで良ければ話聞くよ」
「あ、いえ! そういう訳では……!
正式に入学しましたし、先生方に改めてご挨拶をと……」
「オヌシは真面目な良い子だね。
自分からコミュニケーションしようとする姿勢、ベリベリグッド! よろしくプリーズだよ!」
「はい、こちらこそ。それではご機嫌よう」
セイジ先生と別れて、別の先生を探すけれど……。
タイム先生は他の学生さんとお話し中みたいだし、レホール先生は何かの本を真剣な顔で読んでいる。
今声を掛けたら邪魔してしまうわね。
(……あら?)
窓際に目を向けると、そこには誰かと話をしているネモの姿があった。
相手は黒のスーツを着た女性で、とても親しそうに見える。
やがて話が終わったのか、女性は踵を返して私の方へ歩いてきて。
私と目が合うと少しだけ目を見開いた後、"失礼します"と言って職員室を退室した。
「あっ。シオン、来てたんだ!」
「ご機嫌よう、ネモ。それより、先程の方は?」
「やっぱり気になる? あの人は"トップ"って呼ばれてて、強くてすごくてかっこ良くて……トレーナーなら誰もが憧れる人なんだ!」
「では、あの方もポケモントレーナーなのですね……」
「あっ、それでさ! さっきの教室での話!」
「話題の切り替え速過ぎませんこと……!?」
ネモの言う"さっきの話"って、何のことだろう?
思考を巡らせて考えてみたけど、コレというものが出てこない。
「忘れちゃった? 私の質問に、"これから自分の夢を見つけていきたい"って答えてくれたでしょ?」
「あぁ、先程のHRの……。それがどうかしまして?」
「もし良かったら、シオンもチャンピオンランク目指してみない?」
「わ、私が?」
チャンピオンランクになるということは、つまり……"トレーナーとして"ネモと対等な立場になるということだ。
(私に、できるのかしら……)
私はポケモンのことも、ポケモントレーナーになる上での心構えも、まだ何も知らない。
対してネモは私よりも多くのポケモンと触れ合ってきた。
そして何より、彼女は現役のチャンピオンランク。トレーナーとしてのレベルと経験は圧倒的に上だ。
「簡単に説明するね。
チャンピオンランクっていうのはポケモンを鍛えて、その技で人々を魅了する……言わば"ポケモンバトルのプロ"!
ポケモンリーグに認められるとチャンピオンランクを名乗れるんだ」
ネモの話をまとめると、こうだ。
チャンピオンランクになるにはアカデミーで授業を受けるだけではダメで、パルデア各地に点在する"ポケモンジム"と呼ばれる場所で勝ち抜かなくてはならないらしい。
ジムは全部で8ヶ所あって、各ジムに必ずいる"ジムリーダー"と呼ばれる人に勝つと"ジムバッジ"を貰えるそうで。
所持しているジムバッジの数が、そのトレーナーの強さの証明になるとか。
「全部のジムを制覇したら、ポケモンリーグで"チャンピオンテスト"を受けられる。
これに合格すれば、晴れてチャンピオンランクになれるんだよ」
「今の私には途方もない話ですが……すごい称号なのですね」
「エヘヘ。自分で言うのは恥ずかしいけど、そんな感じ。
私は前回の宝探しでチャンピオンランクになったんだ」
「宝探し?」
この世界に来てから質問ばかりの私に呆れることもなく、ネモは説明を続けてくれる。
「宝探しっていうのは、もうすぐ始まる特別な課外授業のことだよ。
学校の外で冒険しながら自由に学べて、すっごく楽しいんだ!」
課外授業……座学だけでは学べないことを経験できるのは楽しいかもしれない。
私も若葉やミライドン、これから仲間になるかもしれないポケモンたちと色んな思い出を作りたいな。
「もちろん無理にとは言わないから、候補の1つに加えてもらえると嬉しいなって。
スマホ出してみて。マップにジムの場所を登録してあげるよ」
「はい、ありがとうございます」
スマホを使い、ネモにポケモンジムの場所を登録してもらう。
彼女はまだ片付けがあるということで、私は食堂に向かうことにした。
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