01
職員室で先生方との顔合わせの後、私はジニア先生と一緒に1-Aの教室へ向かっていた。
「いやぁ、まさかシオンさんが僕のクラスの生徒になるとは。
何となくそんな気はしていましたが、いざ本当に教え子になると不思議な気持ちですねぇ」
"言い出しっぺは僕ですけどぉ"とゆるやかな笑みをこぼす、ジニアさん改めジニア先生。
私自身まさか彼が担任になるとは思っていなくて、驚くと同時に少しホッとした気持ちになった。
彼はクラベル先生と同じく、私の事情を知る数少ない存在だから。
「さぁ、着きましたよ。
まずは僕だけ先に入りますから、合図の後に入ってきてくださぁい」
「は、はい。分かりました」
そう言い残してジニア先生が教室へ入っていく。
"はぁい、みなさんおはようございまぁす"という彼の声に、賑やかだった空気が静かになった。
「今日は大ニュースがあります。知りたい人は誰かなぁ?」
「はい、はーい! 知りたーい!」
「今日からこのクラスに新しいお友達が増えまぁす。
どうぞ、入ってきてくださぁい」
合図というのは、今ので間違いないだろう。
ドアノブに手を掛けて教室に入り、教卓の隣に立つ。
新しいクラスメイトたちの視線が私に集中した。
「では、自己紹介をお願いしまぁす」
(落ち着いて……。大丈夫、大丈夫)
小さく深呼吸して自分にそう言い聞かせながら、私はゆっくりと口を開いた。
「……ご機嫌よう、みなさん。
本日よりこのクラスに転入することになりました、シオンと申します。
どうぞ、お見知り置きを」
……うん、出だしは問題なくできた。
静かだった教室が少しだけ賑やかになり、"アニメに出てくるお嬢様みたい……!"という声も聞こえてくる。
「みなさん、シオンさんに興味深々ですねぇ。
誰かシオンさんに質問がある人はいるかなぁ?」
予想外の流れに困惑すると同時に、窓側の席の男の子が手を挙げた。
「はーい、じゃあ僕から! シオンさんは、ポケモンのどんなところが好きですか?」
「えっ、と……可愛がることができるところでしょうか」
「わぁ、そうなんだ! 僕もだよ!」
"答えてくれてありがとう"と笑う彼に、こちらも笑みを返す。
次に手を挙げたのは、なんとネモだった。
「次は私から!
シオン……さんはこの学校で勉強していって、将来何になりたいですか?」
(将来、か……)
私は産まれた時から自分の将来を親に決められていた。
父の病院を継ぐか、それとも母の製薬会社を継ぐか……。私の人生には既にレールが敷かれていて。
でも今なら何のしがらみも無い。自由に自分のやりたいことを決めても、誰にも文句を言われない。
だからいざ将来のことを聞かれると、明確なビジョンは浮かばなかった。
「まだ……まだ、分かりません。
ですが、これからこのアカデミーで過ごす中で見つけていけたら良いと思います」
"ありがとうございます"と言ったネモが座り、ジニア先生が"自己紹介ありがとうございました"と締め括った。
「シオンさんは遠い場所から、このパルデアに1人で来たそうです。
慣れないことや分からないこともあると思うので、困っているのを見掛けたら助けてあげてくださいねぇ」
"はーい!"というクラスメイトたちの声が響く。
それと同時に、HRの終了を知らせるベルが鳴り響くのだった。
[*prev] [next#]
TOP