03
「ヤングース、戦闘不能! ニャオハの勝ち!」
ネモの号令が試合の終了を告げる。
"わぁい、勝ったー!"と走って戻ってきた若葉を労い、その頭を撫でてあげる。
すると若葉は嬉しそうに喉を鳴らしていた。
(そういえば……)
ふと、手元のテラスタルオーブを眺める。
試合前にはあれだけ輝いていた青白い光が、今は消えていた。
「さっすがシオン、テラスタルも良い感じだね!」
「ありがとうございます。
……あの。オーブの光が消えてしまったら、もうテラスタルは使えないのでしょうか?」
「ポケモンセンターに行けば、エネルギーをチャージしてもらえるよ。
授業が終わった後にでも行ってみたらどうかな?」
「そう、ですね……。そうしてみますわ」
そんな話をしていた私とネモの隣で、スター団の2人組は"お疲れ様でスター"と言って逃げるように去っていった。
ネモの話によればスター団はいわゆる"やんちゃな生徒"の集まりらしい。
出席率が低く集団で暴走を行っているそうで、先生方を頭を抱えているのだとか。
もしかするとさっきの強引な勧誘も、その"暴走行為"の1つだったのかもしれない。
「……あの!」
私の後方から誰かの声が聞こえ、思わずそちらを振り返る。
声の主は、あの眼鏡の学生だった。
「先程は災難でしたわね。大丈夫ですか?」
「えと……ありがと、ございます……」
人と話すことが苦手なのか、彼(彼女?)は目線を合わせることなくポツリとお礼の言葉を呟く。
そして"……先、行くんで"と言ったきり、そのまま走っていってしまった。名前を聞きたかったな。
「シオン、えらい! 人助けしてたんだね!
あんまり見ない顔だけど、あの子も転入生なのかな? イーブイのバッグ、もっふもふ」
「イーブイ?」
「さっきの子のバッグのモチーフになってるポケモンだよ。
進化系の子たちと合わせて人気があるんだ」
あの茶色のポケモンはイーブイっていうのね……。
"進化系"っていうのはよく分からないけれど、それはこれから学んでいけば良いわよね。
「さて、いよいよ学校に向かいますか。
地獄の階段……頑張って上ろう!」
「そんな風に呼ばれているのですか、この階段……」
時折小休憩を挟みながら、ゆっくりと階段を上っていく。
全ての段を上り切る頃には、見事に2人揃って脚が悲鳴を上げたのだった。
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