01
プラトタウンという小さな町にたどり着き、ネモの提案でアイス屋さんに立ち寄る。
ここからテーブルシティまでは坂道が多いらしく、小休憩を入れながら行こうということになったのだ。
「どれにしようかなー。いつも何味にしようか迷っちゃうんだよね……」
「種類も豊富みたいですし、無理もありませんわ。
若葉とミライドンはどれにする?」
『んー……。僕はマンゴーが良い!』
『じゃあオレは青いヤツ!』
「分かった。すみません、マンゴーとソーダを1つずつくださいますか?」
「はーい、2つで1800円です」
スマホロトムを使って会計し、近場のベンチに座る。
この世界では現金かLP……リーグペイと呼ばれるポイントを使って支払うのが普通なのだそうで。
ネモが"たくさんあるから遠慮しないで"と言って分けてくれた。
持ち合わせを持たない私にとってはありがたいことだ。
ポケモントレーナーはポケモンバトルで生計を立てていることもあって、バトルに負けた場合は相手に賞金を払うという決まりもあるらしい。
「お待たせ、シオン! じゃあ食べよっか!
クワッス、パモ、出ておいで!」
ネモの声に反応して、クワッスとオレンジ色の小さなポケモンが姿を現す。
クワッスは器用にアイスクリームのコーンを持つと、美味しそうに食べ始めた。
オレンジ色の子はネモと分け合うみたい。
「あれ、シオンは買わなかったの?」
「えぇ。食べる機会は、これからいくらでもありますから。
……それよりも、初めて見る子ですわね」
小さな口で一生懸命アイスクリームを食べるオレンジ色のポケモンを見る。
"ん〜、おいし〜!"と顔を綻ばせる様子はとても愛らしくて、私もつい頬が緩んでしまう。
「あぁ、この子はパモ。最近育て始めたんだ」
「そうなのですね。よろしく、パモ」
頭を撫でてみたいけど今は両手が塞がっているから、後でネモにお願いしてみよう。
若葉とミライドンは(四足歩行だからか)私の手から直接アイスを食べている。
するとミライドンが不思議そうに首を傾げた。
『これ冷たくて甘くて美味しいなー。若葉のはどんな味?』
『僕のはマンゴーだよ。君ってアイス食べたことないの?』
『うん。食べ物は茶色くて小さい塊みたいなやつしか食べたことないんだよね。
あれはあれで美味しいけどさ』
"サンドイッチ? も今日初めて食べた"と言うミライドンの言葉に首を傾げる。
ネモに"どうしたの"と聞かれたので、彼らの会話の内容を簡単に説明した。
「それ、たぶんポケモンフーズのことじゃないかな?」
「ポケモンフーズ?」
ポケモンフーズというのは文字通りポケモンたちのご飯のことらしい。
ポケモンのタイプごとに必要な栄養素がバランス良く配合されているため、トレーナーはそちらを与えることが多いそうだ。
「うーん……ミライドンのこともだけど、シオンのその能力もホント不思議だよね。
いつからポケモンの言葉が分かるようになったの?」
「それが、私にも分かりませんの。気付いたら理解できるようになっていた、としか……」
現状私だけしか持たないであろうこの能力。
何故私しか持ち得ないのか、何のために身に付いたのか……。
今の私は、分からないことだらけだ。
「でも、ちょっと羨ましいな。だってポケモンたちが何をどう考えてるのかが、言葉を通して分かるってことでしょ?
私や他の人には真似できない、"シオンだけの特別"って感じ!
……あ、絶対誰にも言わないから安心して!」
「はい、そうしていただけると助かりますわ」
"美味しかったー! ごちそうさま"というパモの言葉を合図に、ネモが残りを食べ進めていく。
全員がアイスを食べ終わったのを確認し、再びテーブルシティに向かって出発した。
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