06

灯台を目指して少し歩くと、大きなリュックを背負った人が立っていた。

同じ制服を着ているということは、あの人もグレープアカデミーの生徒なのだろう。

こちらを振り返ったその人と、不意に目が合う。

すると突然、すごい剣幕で私たちの方へ近付いてきた。

「何でいる!?」

声の低さから恐らく男性であろう大声に、思わず肩が跳ねる。

おまけに"ヒッ……!?"と小さな悲鳴まで零してしまった。

「お前らに言ったんじゃないさ」

その言葉で彼を怒らせた訳ではないことが分かり、ひとまず胸を撫で下ろす。

でも彼の視線はミライドンにだけ注がれていて、私とネモのことはほぼ眼中に無いようだけれど……。誰なのだろう?

「君、確か文系クラスのペパー……だっけ?
ポケモン博士……フトゥー博士の息子さん」

「ペパー……?」

確か、ミライドンから聞いた名前だ。

彼に会わなきゃって言っていたけど、この人がそうなのね。

「……父ちゃんは関係無ぇ」

でもペパーさんは父親の名前を聞くや否や、眉間のシワを深くする。

私もお父様やお母様と特別仲が良い訳では無いけれど、あまり仲が良くないのだろうか?

「それより、このポケモンが何でいるんだよ? どうしてこの姿に!?」

「が、崖の下で倒れていて……。ここに戻る洞窟の中で助けてくれましたの」

「でも力を使い果たしたみたいで、その後へたり込んじゃったけど……。
姿が変わる前はものすごく強かったんだよ!」

「……だろうな。この姿じゃ戦えねぇさ。
ミライドンの本当の姿は、"戦ってる時のフォルム"だからな」

「え?」

彼の口から出てきた言葉に、思わず目を丸くする。

ネモが知らなかったこの子の名前を言い当てたり、"本当の姿"と言ったり。

彼は……ミライドンのことを詳しく知っている?

「ミライドンってこの子の名前? 何で知ってんの?」

『ペパー……やっと会えた! オレ、エリアゼロから逃げてきたんだ。
前みたいに、また一緒に暮らそうよ!』

「研究所には入れねぇよ。鍵掛けたからな」

ペパーさんは苦虫を噛み潰したような顔でそう言い放つ。

ミライドンは彼に会いたい一心でここまで来たのに、あの態度はあんまりだ。

「……あの、ペパーさん」

彼の名前を呼んだ私の声に、ペパーさんが振り向く。

仏頂面で相手を射抜くような視線がぶつかった。

「お前見かけない顔だけど、その制服は……うちの学校の生徒かよ」

「本日よりグレープアカデミーに転入することになりました、シオンです。
どうぞよしなに」

「ふぅん? 知らねぇだろうから言っておくが、ミライドンは普通のトレーナーが扱えるポケモンじゃねぇ。
コイツの世話が務まるか、俺が試してやろうか?」

ネモとバトルした時に向けられたものとはまた違う、挑戦的な視線。

何故か彼には負けたくない−−そう思った。

「……分かりました。その挑戦、お受けします」

「へへっ、意外とやる気満々ちゃんだな。
このモヤモヤ気分……晴らさせてもらうぜ!」

「じゃあ、審判は私がしてあげるね」

「お願いしますわ」

『オレも一緒に見てるよ』

灯台前の広いスペースに向かい合って立ち、気持ちを落ち着かせるための深呼吸を1つ。

私とペパーさんの、ポケモンバトルの幕が上がった。


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