04
『よぉ。侵入者ってのはテメェらか?』
低く、威圧するような声が洞窟内に反響する。
私たちの後ろから、何かが歩いてくるのが見えた。
大きな2本の角に、スラッとしたしなやかな体。
黒い体に赤い目が特徴的なポケモンだった。
ポケモン図鑑のアプリを起動してスキャンすると、ヘルガーというページが表示された。
デルビルたちが"親分"と呼んでいるのを見るに、彼は群れのリーダーなんだろう。
『俺の子分どもが世話になったらしいじゃねぇか。
見かけねぇ連中だからって、俺の縄張りに入った以上は容赦しねぇ』
その堂々とした姿に、思わず身震いする。
あの目は……獲物を前にした狩人の目だ。
『シオンに手出しはさせないよ!』
モンスターボールから若葉が飛び出し、ヘルガーに向かって威嚇する。
でもヘルガーは全く気にする素振りを見せず、標的を若葉に定めた。
『口の減らねぇ小僧だな』
ヘルガーが凄まじい迫力で吠える。
すると若葉は強制的にモンスターボールへと戻されてしまった。
「……!」
『フン、俺が直接相手するまでもねぇ。
さて……テメェらには、きちんと落とし前付けてもらわねぇとなぁ?』
『このっ……! シオンたちは関係無いだろ!』
「ミライドン!」
ミライドンが尻尾を大きく薙ぎ払い、ヘルガーを突き飛ばす。
ヘルガーはグルル……と唸りながら、私とミライドンを睨み付けた。
『……へぇ、ちったぁ骨のある奴みてぇだな』
"来い、子分ども!"という遠吠えを聞き付けたデルビルたちが次々と現れる。
数匹なんて数じゃない。両手では数え切れないほどたくさんのデルビルたちに囲まれてしまった。
目の前にはヘルガー、足元にはデルビルたち。
絶体絶命の状況に足元はすくみ、完全に膝が笑っている。
『シオン、ゴメン! 暴れずにじっとしてて!』
「えっ……キャッ!?」
急に足が地面から離れ、誰かに抱き上げられる感覚がする。
もしかして私……お姫様抱っこされてる?
誰に? ミライドンに……!?
混乱と恥ずかしさで頭の中がパニックを起こす。
でもじっとしていろと言われた手前"下ろして"と言えるはずも無く、私はミライドンの腕の中で身を固くするしかない。
『あ? 人間なんざ抱え込んで何する気だ?』
キョロキョロと辺りを見回すミライドンの上から、"おーい!"という声が聞こえてくる。
「こっちだよ! 急いで!」
『……よし。そのまま口閉じてて』
頷く暇もなく凄まじい浮遊感に襲われ、一瞬で洞窟を脱出する。
悔しそうに舌打ちするヘルガーたちの声を背後に、私たちは灯台の近くまで一目散に走ったのだった。
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