02
(あれは、何……?)
体の大きな紫色の生き物が倒れていて、2匹の黒くて小型の生き物が吠え立てている。
それに対し、紫色の生き物はおもむろに体を起こして雄叫びを上げた。
(さっき聞こえた声と同じ……! あの子たちもポケモン……なの?)
よく観察しようと身を乗り出したのが良くなかったのだろう。
ズルッ、と崖から足を滑らせてしまった。
(しまっ……!)
気が付いた時にはもう遅く、私は重力に従って落ちていく。
思わず目をつむろうとした時、制服のポケットから何かが飛び出すのが見えた。
目の前に現れたソレを、無我夢中で掴む。
すると体がフワリと浮いて、ゆっくりと地面へ着地した。
改めて掴んだ物をよく見れば、何とスマホロトムだった。
(そういえば……さっき安全機能がどう、ってネモが言っていたような……)
元の世界のスマホには無い機能に感心していると、若葉がモンスターボールから飛び出してきた。
『シオン、大丈夫!? ケガしてない!?』
「大丈夫よ。心配かけてごめんね」
若葉の頭を撫でながら辺りを見回す。犬のような子たちはどこかに行ってしまったようだった。
そして紫色のポケモン? は、またグッタリと倒れている。
もしかして、どこかケガでもしてるんじゃ……。
襲われるかもしれないという恐怖心も少し持ちながら、ゆっくりとその子に近付いていく。
「あの、大丈夫? どこかケガをしたの?」
グウウウウウウ……
声を掛けるのと同時に聞こえてきた大きな音に、思わず目を見開く。
もしかして、この子の元気が無い理由って……。
『お腹空いたなぁ……』
(やっぱり……)
ポツリと呟かれたその言葉に、1人納得する。
何か食べる物は無いかとカバンを探ってみた。
(……サンドウィッチって食べられるのかしら)
今手持ちの荷物で食べ物と言ったら、これしかない。
ネモの家のお手伝いさんが持たせてくれた物だけど……仕方ないわよね。
「はい、これどうぞ」
『シオン、あげちゃって良いの?』
「うん。私の分は後で買えば良いから」
『う〜ん……? 何、これ?』
私たちの声に反応したのか、それともサンドウィッチの匂いに反応したのか。紫色の子が体を起こしていた。
スンスンとサンドウィッチの匂いを嗅いでいるのを見ると、どうやら後者だったらしい。
「ごめんね。食べられる物、これしか持ってなくて」
『え、食べて良いの?』
「どうぞ」
口を大きく開けてサンドウィッチにかぶり付く。
モシャモシャ、ゴクンと飲み込んだその目に光が戻っていた。
『美味しかったー!』
「良かった。元気になったみたいね」
『オレ、こんな美味しいもの食べたの初めてだよ! ありがとう!』
「フフッ、どういたしまして」
この子……すごく素直というか、無邪気な性格なのね。
少し可愛いかも。
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