04
「それまで! ……シオンさん・ニャオハさんペアの勝ちですね」
クラベルさんのコールを遠くに聞きながら、私は惚けたように立ち尽くす。
"わーい! 勝ったよ、シオンー!"と言いながら飛び込んできたニャオハを慌ててキャッチした。
『僕、頑張ったよ! ねえねぇ、僕偉い?』
「……えぇ。よく頑張ってくれたわ、ニャオハ」
"エヘヘー、褒められた!"と嬉しそうに頬擦りしてくるニャオハを、優しく抱き締めた。
(これが……ポケモンバトル……)
勝ったとか負けたという感情よりも、戦いそのものの激しさが頭の中でリフレインする。
バトルをしている間はニャオハに指示を出すこと以外考えられなくて、もう無我夢中だった。
(まだ胸がドキドキしてる……)
元の世界にいた時には考えられなかったこの高揚感に、私は無意識に口角を上げていて。
いつの間にか目の前に来ていたネモさんに手を掴まれ、思い切り肩が跳ねた。
「初めての勝負で勝っちゃうなんてすごい! 絶対もっと強くなるよ!
ねぇ、どうだった? ポケモンバトル、楽しかった?」
「……ぃ……。はい、とても!」
まだまだ初心者で拙い部分は多いかもしれない。
ポケモンを傷付けてしまうことへの抵抗が拭えた訳ではないけれど、ニャオハと一緒に何かをやり遂げた達成感の方が強くて。
コクコクと頷いた私を見て、ネモさんが"でしょー!?"と顔を綻ばせる。
ハツラツとした表情で笑う彼女は、まるで無垢な子どもの様だった。
「一緒にバトルできる子が増えて嬉しいなー!
違う戦法も試してみたいし、もっかい勝負しよー!」
「もっかいって、今からですか!?」
その言葉に焦りながら口を開くと、クラベルさんがネモさんを静止してくれる。
素直に謝罪の言葉を口にした彼女に、"気にしてない"と返した。ニャオハも"またやろうね!"と笑っている。
「さっき出会ったばかりなのに、もう仲良しさんですね。
チャンピオンとして色々教えてあげてください」
「はーい。そうだシオン、スマホは持ってる?」
「? はい、一応……」
「ポケモン始めたばかりなら、あのアプリ入れなきゃ! ちょっといじらせて」
「分かりました」
ネモさんにスマホを渡そうと、私は制服のポケットに手を入れる。
けれど、どのポケットにもスマホは入っていなかった。
「えっ、どうして……。確かにポケットに入れていたはずなのに……!」
「もしかして、失くしちゃったの?」
「そう、みたいです……」
こちらの世界に来る直前に落としたのだろうか。
個人情報の入っている物だし、せめてあの部屋にあれば良いのだけれど。
「じゃあお父様に頼んで、新しいスマホロトム用意してあげるよ。
アプリはその後で入れてあげるね」
「で、ですが今は持ち合わせが……」
「お金のことなら気にしなくて大丈夫!
私からのプレゼントってことで受け取ってもらえると嬉しいな」
そこまで言われてしまっては無下にすることもできず、お礼の言葉と一緒に頷く。
そのまま私たちはネモさんのお家に泊めていただけることになった。
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