03
長い坂道を上っていくと、右手に大きな建物が見えてくる。
正門玄関に差し掛かった途端、ニャオハたちが"わぁー!"と言いながら走っていった。
『お花いっぱいの花壇!』
『あの木の実、美味しそー!』
『こんなに大きなプールは初めてです!』
「ダメよみんな! 人様のお家で勝手なことしたら!」
でもすっかりテンションの上がってしまった彼らに私の声が届くことは無く。
どうしたものかと困り果てていた時、ホゲータに近付いていく人影が見えた。
その人はくしゃみで木の実を焦がしてしまったホゲータの頭を優しく撫でている。
「す、すみません! お家の敷地内で勝手な真似を……」
「アハハ、大丈夫だよ。
それよりも、君がこの子たちのトレーナー?」
そう言って振り向いたその人は、ニッコリと笑う。
小麦色の肌に大きな琥珀色の目、風になびくポニーテール。
私のイメージする"快活な少女"をそのまま絵にしたような人だった。
「えっと……あ、あの……」
「シオンさんは、まだポケモンをお持ちではないのですよ」
声の聞こえてきた方へ目線を向けると、そこにはクラベルさんが立っていた。
「紹介しますね。
こちらがネモさん、我がグレープアカデミーの生徒会長です。
ネモさん、彼女はシオンさん。諸々の事情で我が校へ入学することになったのです」
"別の世界から来た"ということを伏せてくれたことに、ホッと胸を撫で下ろした。
"ジニア先生にも、あなたの事情は口外しないように言ってあります"と、小さく耳打ちしてくれる。その気遣いがとても嬉しかった。
「そうだったんですか! じゃあ"初めまして"だね。
私はネモ。普段は学校の寮にいるんだけど、同じアカデミー生として仲良くしよっ」
「は、はい。よろしくお願いします」
目の前へ差し出された手にゆっくり自分の手を重ねる。
ギュッと握り返した彼女の手は、暖かくて力強かった。
「ネモさんはチャンピオンランクのトレーナーでもあります。
同じクラスの仲間同士、ゆっくりと交流を深めてくださいね」
「"同じクラス"……?」
「えーっ、同級生なんだ!ポケモン勝負戦り放題!」
「"同級生"って……えぇっ!?」
生徒会長だと言うから年上なのだろうと思っていた彼女は、まさかの同級生だった。
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