03
……で、今に至る訳なのだけれど。
見渡せど見えるのは、海と砂浜と崖のみ。
あとは……見たこともない生き物たちがいることくらいだ。
(知らない場所……知らない生き物……。どういうことなの?)
「……のぉ……」
(確かに窮屈な生活から抜け出したいとは願ったけど、ここまでしてくれだなんて言っていない……)
「……あのぉ……」
(ここがどこなのか分からないし、帰り方も分からない……。私はどうしたら……)
「……あのぉ……!」
「はい、何でしょうか!?」
どこからか聞こえてきた声に驚きつつ、辺りを見回す。
つい大声を出してしまったけれど、今回は不可抗力ということで許して欲しい。
はしたないのは自分でも分かっているから。
しかし声の主の姿はどこにも見当たらない。……気のせいだろうか?
「下……下ですよぉ……」
「下?」
謎の声に促されるまま、目線を下に降ろす。
そこには……――
「わ……キャアアアアアアア!!」
私に下敷きにされている白衣の男性がいた。
「いやぁ、ビックリしましたよぉ。
この辺りのポケモンを調査していたら、君が空から落ちてくるのが見えましてぇ。
受け止めようと思ったんですけど、見事に下敷きになったいましたぁ」
「す、すみませんでした……。
助けようとしてくださったのに、悲鳴を上げるなんて……」
「まぁ男性相手ですから、当然の反応だと思いますよぉ。
それより、どこか怪我とかしてませんかぁ?」
どこにも怪我をしていないことを確認し、大丈夫だと伝える。
すると白衣の男性は"良かったぁ"とフニャリと笑った。
「あ、あの……助けてくださってありがとうございました。
私はシオンと申します。あなたは?」
「あぁ、自己紹介がまだでしたねぇ。
僕はジニア。グレープアカデミーで生物学を担当していますぅ」
生物学……は分かる。ということは、彼は学校の教師なのだろう。
でも、"グレープアカデミー"なんて学校名は聞いたことが無かった。
「グレープアカデミー?」
「はぁい。テーブルシティにある学校なんですよぉ。
君も見たところ学生のようですけど、どこの学校の生徒さんなんですかぁ?」
"見たこと無い制服だなぁ"と言いながら、まるで宝物を見つけた子どものように目をキラキラさせる彼。
(悪い人ではなさそうなのだけど……)
私は今1度、彼を横目で観察してみた。
風になびくツートーンカラーの紫の髪。垂れ気味でありながらクリッとした目は、人懐っこさを感じさせる。
ただ自分の身なりに無頓着なのか、彼は白衣の下にヨレヨレのシャツとズボンを着用していた。
おまけに足元はクタクタのサンダルで、調査というには服装がラフ過ぎるというか……ハッキリ言ってズボラだ。
本当に教師なのかと疑いたくなるけれど、彼が私に嘘をつくメリットがあるとも思えない。
本当のことを話しても良いのだろうか……そう頭を悩ませた時だった。
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