04



「……って、アンタと緋翠だけなの?」


噴水広場にいたのはユイとその隣で慎ましく控えている緋翠のみ。


「はい、他の仲間にはノモセシティで待機して食事の用意をしていただいてます。私たちは先にグランドレイクでチェックインをしてからノモセシティに向かう形になりますね」


緋翠に「こんにちは」と微笑み挨拶をされ、私の後ろに隠れて小さく威嚇していた翠姫が疑問符を浮かべ顔を出した。


「じゃが、ノモセシティまではどうやって行くのじゃ?あの空飛ぶ機械の中でハルとガイドブックを読んでおったが、ここからだと距離が結構あるように思われたのじゃが」
「そこはね翠姫ちゃん、うちのエスパーの出番なんだよ!」
『どうでもいいが早くしろ。ここは人が多くて嫌になる』
「……それもそうだね、それじゃあ外に出てグランドレイクに行こう!」


ユイの先導で空港の外に出て、人気の無い裏通りに進む。すると緋翠が原型のキルリアの姿になり、ユイと軽く目配せをしていた。初めて生のキルリアを見たけど、本当に人間の女の子みたいだ。


『ハル様、僭越ながら翠姫をボールに戻していただけないでしょうか』
「翠姫を……?分かった」
『ハルに何かしたらわらわが承知せぬからな!』
『はい、勿論』
「それじゃあハル、緋翠の周りに立ってね」


言われるがまま緋翠の側に立ち、緋翠が手を合わせ集中するのが感じられた。そして空間がぐにゃりと曲がり、不思議な浮遊感に襲われたと思った次の瞬間、私は見知らぬ建物の目の前に立っていたのだ。


「……な、……え……!?」
『……ふぅ。無事に到着出来ましたね』
「緋翠ありがとう。疲れたでしょ?ボールの中でゆっくり休んでね」
『お気遣いありがとうございます、マスター』


呆然としている私を心配してか、翠姫がボールから飛び出てきた。


『ハル!大丈夫か!ケガとかしておらぬな!?』
「大丈夫だよ翠姫。……今のは、何?」
『テレポートだ。一度行ったことのある場所を移動できる技になるが……この距離を移動できるとはな』
「“テレポート”……」


ポケモンの持つ力を改めて実感させられた気がする。目の前の建物の看板を見ると、グランドレイクの受付を担当している建物のようだった。あまり人と関わることをしたくない私に代わりユイが受付の対応をしてくれたのは正直言って有難かった。
渡されたルームキーのプレートに書かれたコテージに向かい、荷物を降ろす。「わらわとハルの城じゃー!」と翠姫がベッドではしゃいでいる。紫闇もいるからね。

そして一息つきノモセシティ向かおうとコテージを出た時だった。


「あら、ユイ。こんなところで会うなんて奇遇ね」
「あ、ティナちゃん」


突然ユイに話しかけてきた水色のウェーブショートが特徴的な女の子。どうやらユイの知り合いみたいだけど、私は無意識にため息が零れた。


「紹介するよ、私の友達のティナちゃん。実はこの前のサンヨウレストランのチケットをくれたのもこの子なんだよ」
「……どうも」


視線をつい逸らしてしまい、ティナという少女は不思議そうに首を傾げている。翠姫が目を輝かせティナを見つめていた。


「お、女子じゃ……!ユイにもちゃんと女子の友達がおったのじゃな。わらわは翠姫と言う。この女子はわらわのトレーナーのハルじゃ。よろしく頼むぞ、ティナとやら」
「トレーナー……?ということは、あなたもポケモンなのね」
「あなた“も”……?」
「ああ、この姿だと人間と思うわよね。あたしもポケモンで……ちょっと種族は明かせないわ、ごめんなさい」


種族を明かせない……?困り顔でそういう彼女に詮索はしないけれど、なにか理由があるのだろうか。でも彼女がポケモンだという事実に変わりは無い。

ティナも一緒にノモセシティに来てくれることになり、道中隣に並び舗装された道を進んで行く。


「さっきは失礼な態度をとってごめんなさい。翠姫から紹介があったけど、私はハル。……その、レストランの食事券、ありがとう。君がくれたんだね」
「ユイはもう1枚をあなたにあげたのね。ということはイッシュ地方からの方?遠方からご苦労さま」
「ありがとう。……実は私の仲間、翠姫の他にもう一匹いるんだ」


そう言って人気が無いことを見計らって、紫闇をボールから出す。紫闇の身体を見たティナが小さく目を見開いた。


「……そう。あなた、苦労したのね」
『……もういいだろう。俺は戻る』
「ごめんね、出てくれてありがとう」


紫闇を見ただけで彼のこれまでの境遇を察したのか、ティナの目は悲しみの色を宿していた。


「色違い。……あの子と同じね」


そう小さく呟いた彼女は、紫闇を通して何を思い浮かべていたのだろうか。



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