03


「道の真ん中で止まってたら迷惑になるよ」
「あっごめん。あそこで何かやってるみたいで気になったんだ」
「くじ引きのようですね、料金を払えば誰でも参加できるみたいです」


サンヨウシティのPC前にくじ引きの会場が開かれているようだ。参加料金は高めだけど、その分当たりの商品が豪華みたいでかなりの列を生している。参加賞は……リボン?


「あれはリゾートエリアのリボンシンジゲートのゴージャスリボンですね。なるほど、リボンシンジゲートがイッシュ地方に出張してるという訳ですか。この人の多さも納得です」
「リボン……?」
「高級リボンやエステを取り扱ってる施設だよ。本来なら会員制らしいけど、イッシュ地方にまで赴いて制限を設けてないってことは宣伝も兼ねてるんじゃない」
「お前は妙に詳しいな。……どうするんだちんちくりん」
「え、私?折角なら参加しても良いと思うけど……」
「ぼく、やりたい。リボンきらきら〜」
「白恵がやりたいってよー。案外すげぇの引き当てそうだな」


どうやら白恵が参加するみたいで、ユイたちが列に並ぼうとしている。「ハルはどうする?」とユイが私に尋ねてきた。正直言えばこんなにたくさんの人間がいる所、早いとこ去りたいものなんだけど。

じー、と目の前の会場を物珍しそうに見ている翠姫を見て、小さく息を吐く。


「やってみる?翠姫」
「!良いのか!?」
「いいよ、碧雅たちがいるから人に囲まれることは無さそうだし」


前と後ろをユイの仲間たちに囲んでもらって並ぶ。そしてあっという間に私たちの順番になった。「おさきにどーぞ」と白恵が譲ってくれたので、翠姫が意気揚々とくじ引きに挑んだ。


「いでよっ!……して、わらわは何が貰えるのじゃ!?」
「お待ちくださいねお嬢さん。……残念ですが今回はこちらになります。またご参加くださいね」
「なぬっ!」


翠姫の手に渡されたのは参加賞のゴージャスリボン。でも本来なら手に入らない代物みたいだし、当たりに分類されるんじゃないかな。
そして白恵がくじを引き、店員が中身を確認すると、大きく目を見開いた。そして大きな声で「おめでとうございます!」と高らかに祝福をした。


「シンオウ地方の高級ホテル、グランドレイク1泊2日の旅行券が当たりました〜!」
「やった〜ぱちぱち〜」
「相変わらずの棒読み。でもおめでとう白恵!」


……図鑑でトゲピーは“幸せのシンボル”とされていると説明があったけど、本人の運もここまで高いとは。


「ぬっ、まさかこやつが当たりを引くとは……!」
「おめでとう、白恵」
「ありがとうハルちゃん。じゃあ、はい」
「……?」


白恵が差し出したのは先程当てた旅行券。私にくれるってこと?


「悪いよ。私は大丈夫だから白恵が使って……」


と言いかけて思い出した。そうだ、ユイたちはシンオウから来たんだから、このチケットはホテル部分を除けば彼女たちが持っていても仕方ない。碧雅が白恵の背後からチケットを覗いて、「あ、グランドレイク」と呟く。そしてユイと同じ青い目で私とチケットを見比べた。


「いいんじゃない、シンオウに来てみたら。ここ一度泊まったけど、ホテルという名のコテージで部屋が別れてるからそこまで“人”に出会うことは無いだろうし」
「えっ、泊まったことあるんだ?」
「今回のレストランの食事券をくれた子に、宿泊優待券を貰って泊まったんだよ。……あっ、そうだ!」


ユイが良いことを思いついたと目を輝かせ私の方を見た。


「グランドレイクの近くにノモセシティっていう街があるんだけど、そこには沢山のポケモンが住む大湿原があるんだって。ハル、他所の地方のポケモンに興味があるみたいだし、折角だから来てみたらどうかな?……あ、勿論無理にとは言わないよ、紫闇君のこともあるし」


私と紫闇が人間不信なこともあってか、ユイが眉を下げつつ控えめに提案する。けれどその内容は私にとって魅力的であった。
……碧雅も言っていたようにグランドレイクがちゃんと個人のプライバシーが守られてるコテージなら、紫闇もゆっくり休むことが出来るかもしれない。翠姫も見知らぬ地方に興味津々のようだし。
白恵の小さな手からチケットを受け取った。


「……ありがとう、白恵」
「うん、どういたしまして」
「わぁ!それじゃあ行く日取り決まったら教えてね!」
「……は?」


まるでユイも一緒に着いてくるような口ぶりに思わず低い声が出た。


「別にアンタに来て欲しくないんだけど」
「えっ、そうだったの!?私てっきり一緒に行くものだと思ってた!」
「…………。」


私は一人で行く気だったんだけど。その後に続くのはユイの仲間たちだった。


「俺たちシンオウ旅してるからさ、道案内できるし」
「はい。ハル様の手持ちはこちらの私たちと同様、シンオウでは珍しいので。悪い輩に目を付けられると大変ですしね」
「それにハルさんたちはまだ旅を始めたばかりのように見受けられる。紫闇くんや翠姫ちゃんを危険に晒す可能性は少しでも低くした方が良いと思うけど」
「……という事だ。それに見知らぬ人間よりもまだ知り合いであるちんちくりんに案内された方が、お前も少しはマシなんじゃないか」
「…………。」


こうも理由を色々と言われてしまえば、私は首を縦に振ることしかできない。でも、彼らに迷惑をかけるのは……。


『……不服だが俺もコイツらと同意見だ。俺たちはパーティとしてはまだ発展途上だ。慣れたイッシュならともかく、未知の場所に赴くならば現地を知っているかつ戦力が多いコイツらと共に行動した方が良さそうだが』
「……紫闇」
「…………決まりみたいだね」


彼の後押しもあり、こうして私の初めてのシンオウ地方旅行にユイたちが混ざることになったのである。




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