03
「良く来たな、ユイ」
「ゆっくりして行ってくれ」
「お兄ちゃん、レイナさん、おかえりー!」
「みんな久しぶり!」
「わ、いっぱい紙袋がある!」
家に入ると留守番&料理組のみんながお出迎えしてくれた。お土産のお菓子をそれぞれ配り(甘い物が苦手なメンバーはビターな味のものと後で交換していた)、メインゲストのユイをリビングに案内する。
メイちゃんは元気いっぱいの笑顔でユイに挨拶していた。ユイはその可愛さに思わず身悶えしている。
「ナオト、こんな可愛い妹さんがいたなんて、なんでもっと早く教えてくれなかったの!?」
「えっ?!」
「気にしないで、いつもの事だから」
ほら興奮してないで離れろ変質者と碧雅君に引っ張られるユイ。とはいえリビングに3人のトレーナー+各々の手持ちが入り切る筈もなく、庭に繋がる窓を開けて外を使い、さながらホームパーティーのような雰囲気になった。
「おそらく立食になるだろうと踏んでサンドイッチ等をメインに作っておいた。各々好きな物を取って食べてくれ」
「甘いもん食いたい奴は冷蔵庫にレイナが作ったスイーツがあるからなー。あとお前らがリクエストしたやつもあるぞ」
「もーもー!」
「あれホントに作ったんだ……」
「……フン。おいこけし、鍛錬はサボってないだろうな」
お、晶君が誠士たちに近付いた。誠士もそれに気付いたのかいつものポーカーフェイスが少し緩くなった。
「久しいな晶。元気そうでなによりだ、来てくれて感謝する」
「何故お前が感謝をするのか意味が分からないな。腹ごしらえの後、一戦付き合ってもらうぞ」
「おっ、アンタが例の奇抜ネーミングチルタリスか。俺はハッサムの緋色、ナオトの相棒を務めてる」
「……あの人間か。なんだ、奇抜ねーみんぐとは。馬鹿にされてる気がするのだが」
「いやしてねぇし」
うん、あの時みたいな事は起きなさそうだ。少しほっとしつつ、大勢のホームパーティーを楽しむ。
紅眞君と誠士、緋色が料理談義に花を咲かせ。青刃が緋翠君の入れた紅茶の味に感動して淹れ方やおすすめの茶葉を教えてもらったり。
銀嶺は一人離れたところで昼間からお酒を飲み始めて澪は寝そうになって、それを天馬が諌めつつ白恵君と遊んでくれて。焔と勇人は次から次へとご飯を食べてて笑理と來夢に食べ過ぎと怒られる。
碧雅君は涼しい場所でアイスケーキを静かに堪能していて、晶君は料理談義をしている誠士たちの中に乱入しようとするのを疾風と幸矢が止め、先程のバトルの技の応酬の話が始まっていった。
私たちトレーナーはというと、お互いの手持ちについてや先程話し損ねたこれからの展望を話し合ったりしていた。
(銀嶺じゃないけど、賑やか過ぎるかな?)
近所迷惑にはならないと思うけど、こうして普段会えないメンバーを交えて大勢で過ごすのは新鮮で楽しいものだ。
そして気付けば女の子同士で固まり、輪を描きガールズトークが始まっていた。
「で、どっちが告白したの?」
「へっ」
「プロポーズの詳細、あたしまだ聞いてないからね!」
「いっ」
「メイちゃんはレイナに何が聞きたい?」
「うーんとね、お兄ちゃんのどこが好きなの?」
「え゛っ」
何これ、なんで私だけこんな質問攻めに遭ってるの!?しかもみんな楽しそうだし!
誰か助けを……と思っても周りが女の子だけだからか他のメンバーは離れてるし、ナオトも碧雅君や璃珀さんと何やら話し込んでるし。
「ふーん、ナギサに引っ越すつもりなんだ」
「ああ。今はそのための資金稼ぎをしているんだ」
「ナギサシティか、大切な人の故郷を大事に想う気持ちは俺も分かる気がするね」
「……あぁ。お前と違ってまだナオトの方が男気あるんじゃ……むぐ」
「碧雅くん、ここでは内密に頼むよ」
話の内容は聞こえないけど助けが来ないことは分かった。
まるで四面楚歌、絶体絶命、私の羞恥が。
「そっ、そういうユイはどう!?」
咄嗟にユイの方へ話題をすり替えようとするけど、ユイは無情にも不敵に笑った。
「まっさかー!私には特に無いからこうやって無敵状態でレイナに話を振る事ができるんだよ」
「ぐぅ……!」
「ねぇねぇ、どうなのどうなの?」
詰んだけどあまりにも恥ずかしくて私が降参したからか、しょうがないなぁとみんな諦めてくれたけど、いつかユイが恋をした時に絶対同じように詰め寄ってやると固く誓ったのであった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、気付けば空はオレンジ色に染まっていた。ホームパーティーも終わりが近づき、片付けがボチボチ始まっている。
「ユイは今日マサゴタウンに泊まるんだっけ。良かったらウチに泊まらない?」
「うーんでも、2人のお邪魔しちゃ悪いし……」
「構わないよ。メイも白恵君や普段と違うポケモンが一緒で楽しそうだ」
「私も、もうちょっとユイといたいな」
「あたしも!まだまだいっぱいお話したいもん!」
「……みんながそう言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃおうかな」
「やったー!ユイお姉さんも一緒!」
私たちの会話を聞いていたらしいみんな……というよりバトルジャンキーたちが早速反応した。
「よっし!それなら早速腹ごしらえのバトルと行こうぜ!」
「え、今から?」
「ここまでポケモンが揃う機会は滅多に無い。俺の不得意なタイプの奴もいることだしな」
「ぼく、みんなをおうえんしてるね。わっしょーいって」
「白恵、お祭りじゃないって」
「私は夕食の支度があるから辞退させてもらいたいんだが」
「ふざけるなこけし。せめて先程約束した僕との一戦を終えてから行け」
「おーおーなんだか盛り上がってきてるじゃねぇか」
「おい小僧ども。血気盛んなのは結構だが俺たちを巻き込むんじゃねぇ」
「なんだ、負けるのが怖いのかハガネール。図体の割に大したことない小心者だな」
「…………言いやがったな晶の小僧。その自慢の羽を叩き落としてやらぁ」
「晶、貴方は所構わず喧嘩を売るのをお止めなさい」
緋翠君がニッコリと晶君を諌める。流石の私たちも今日は時間も遅いし、バトルはできれば止めておきたいんだけど……。
「……ふわ、僕はもう寝てたいんだけど、いい?」
「お前は普段から寝過ぎだ、澪。……だが私も勝負よりは、緋翠ともう少し話をしていたい。鍛錬のための勝負は望むところだが、今日は休養日としても良いのではないか?」
「そもそも時刻も遅いしね。また明日改めてバトルするってのはどう?そっちの方がみんな一緒にいられる時間が増えるし、日差しある方が俺好きだし!」
「最後の意見は天馬にしか恩恵ないよー」
「焔も晴れてた方がいいでしょ?同じほのおタイプだし、紅眞も」
「俺?俺は誠士たちと一緒に飯作ろうかなって思ってたしなー。数も多いし、俺は別にいいわ」
「んなっ、ふざけんな紅眞!何のために進化したんだよ!」
「……ハァ、進化の理由は別に構わないだろ」
「俺で良けりゃあ後で付き合ってやるよ、勇人」
ワイワイガヤガヤ、人数が多いから会話の収拾がつかないし、いつの間にかユイたちが明日もいること前提で話が進んでるし。
ナオトとユイの方を見ると、2人もこっちを見ていて、お互いに仕方ないねとばかりに笑い合った。
とある1つの家にて、ひょんなことから沢山のポケモンとトレーナーが集まることになって。
在り来りな話かもしれないけど、私たちにとってはこれもまた大切な1つの思い出のメモリーになって、きっとまたどこかで集まった拍子にこんな事もあったねと笑い合うのだろう。
「それじゃあ、お世話になります」
「うん、もちろん!」
これは、そんな私たちのマサゴタウンでのとある一日の話。
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