02
そして約束の当日。私とナオトはユイたちを迎えに行くためマサゴタウンのPCにやって来ていた。メイちゃんは笑理と來夢と一緒にお留守番を頼んでいる。料理担当の誠士と緋色を除く手持ちが着いてきてくれたけど、バトルジャンキーコンビと幸矢は身体を動かしたいとバトルフィールドに行ってしまった。
「三度の飯よりバトルって感じだね」
「もう、ユイと合流したら迎えに行かなきゃ」
「ポケモンは戦いが本分だからね。自己研鑽に励んでるのはいい事だと思うよ」
ふと、視界の端で誰かがバトルフィールドの方向へ進んでいくのが見えた。
「……あれ、?」
一瞬、見慣れた金髪が見えた気がした。思い当たるのは一人の人物だけど、まさかこんな所にいるはず……ないよね?
一点を見つめる私に心配そうに声をかけるナオトの声で我に返り、再び先程の方角を見るとその姿は消えていた。……気の所為だったのかな。
「レイナー!ナオトー!」
「あ、ユイが来た」
「ごめん!お土産選んでたら時間かかっちゃった!」
その言葉の通り、ユイの両手はお土産用の紙袋で塞がっていた。その後ろから同じく両手の塞がってる碧雅君がやって来るのが見える。その顔は不機嫌というか、呆れてる。
「商品を選ぶのに時間かけすぎ、優柔不断。だから約束の期日に余裕あるから前もって下見するなり早めに買っておくなりしろって言ったのに」
「うっ、返す言葉もございません。荷物持ちありがとうございました。このお礼はアイス1個で」
「やだ、3個」
「えー」
「ユイに断れる権限があると、へぇ?」
「喜んで買わせていただきますので冷気をしまってください寒いです」
……うん、相変わらずだ。
「……ボール越しから見てはいたが、お前らはいつも主従が逆転してるな碧雅の小僧共。ユイの小娘がその調子じゃいつまで経っても舐められたまんまだぞ」
「わっ、ムキムキのおじさん……?」
「顔のゴツさに見合う口の悪さ……。ユイがこうなのはもう慣れっこだし外野がどうこう言うのはやめてくれる」
「こらこら碧雅、会って早々やめて」
「銀嶺はいつもこうだから、気にしないでくれ」
ナオトが苦笑いで銀嶺の弁解をしつつ軽くメンバーを自己紹介……の前にバトルフィールドにいる仲間を迎えに行かないと。その事を話したらユイの仲間も数人バトルフィールドに行っているとの事で、丁度いいとばかりに一緒に向かう事になった。
その道中で現在いるナオトの仲間の紹介に入る。
「えぇ!天馬君と澪君、進化したの!?」
「えへへーそうだよ、驚いたでしょ?」
「進化したことは素直に喜びたいんだけど……か、可愛かったのに……」
「僕は元々シャワーズになりたかったから。シャワーズも可愛いって評判けど」
「うん、それは認める。認めるけど……あの小ささが良かったってのもあって……!」
まあ、イーブイもといブイズはどの地方でも人気あるみたいだからね。私たちの後ろではそれぞれの手持ちが人型になり各々会話を交えて着いてきている。
「お前はキルリアの緋翠と言ったか。聞けばお前は紅茶を入れるのが得意と聞いている」
「得意という程のことでは……ですがそう言っていただけるのは恐縮です」
「謙遜をするな。奥様があの茶葉はどこで手に入るのかと興味を抱いているのを聞いている。試作の菓子に使用してみたいと仰っていたのだ」
「へぇ、もう“奥様”になったのか。順調で何よりだね、レイナさん」
「まだ!婚約中!ですから!」
璃珀さんのあの顔、間違いなくからかってる!
『ぎんちゃん、おっきいねー。たかいたかーい』
「……おい白恵の小僧、満足したなら降りろ」
『もーちょっと、だめ?』
「あぁ?」
「銀嶺、落とすんじゃないぞ」
「す、すみません銀嶺さん、白恵の相手をしてもらって……」
「ユイの小娘より更にガキがいたとはな。お守りなんぞこれ以上御免だし、柄じゃねぇんだが。……バトルフィールドに着くまでだからな、白恵の小僧」
『いいよー。わー、むーちゃんがぼくよりちっちゃいや』
「あっはは、白恵がおっきくなっちゃった。良かったら食べる?おやつのおにぎり」
トゲピーの白恵君を頭に乗せてあげる銀嶺は、相当レアな気がするぞ。あと焔、おにぎりはおやつじゃない。
そういえばユイの持ってきたお土産はなんなんだろうと渡された小さな袋を覗いてみると、入っていたのはリゾートエリアの有名ホテルのディナー食事券。
「本当はペアの物にしようかと思ったんだけど、碧雅に“もう買ってあると思うしかさばる”って言われたからこれにしてみたの。婚約のお祝いのつもりなんだけど……どうかな?」
「すご……!これ、高かったんじゃない?」
「お金のことは気にしないでよ!せめてもの気持ち。あ、他の紙袋はポケモンたちのおやつとか各地方の名産品だよ。どの味が気に入るか分からなくて、買えるだけ買っちゃった」
「ありがとうユイ。引っ越しが落ち着いた頃にでも使わせてもらうよ」
「引っ越し……?」
ナオトの“引っ越し”の単語にユイが首を傾げたところで、タイミング良くバトルフィールドについた。まだバトルしているようで、フィールドは土煙が立っており誰がいるか判別がつかない。
話の続きはまた後で、バトルジャンキーたちを呼ばないとね。
「勇人、幸矢、疾風!しゅー……ごー…………」
「レイナ、どうしたんだい?」
声をかけつつふと横を振り向くと、壁に寄りかかっている人物は先程私が気の所為かと錯覚した金髪の男の人だった。どうやらバトルを見ていたようで欠伸を零し、私の視線を感じたのか青い瞳と目が合った。
な、なんでここにいるの?
「デンジお兄ちゃん!?」
「んぁ?」
「いつ来たの?言ってくれれば迎えに行ったのに!」
「え、レイナ。どうしたの?」
『なんだなんだ?』
『騒がしいが、どうかしたのかレイナ』
『大人数でご苦労な事だな、アンタら』
『ちんちくりんと甘味女に……誰だ貴様は』
どうやら偶然会ったらしい勇人、疾風、幸矢、晶君がバトルをしていたようで、ゾロゾロとこちらに近付いてくる。それよりも私の視線はデンジお兄ちゃん(?)に集中していた。
…………よく見ると、目がいつもよりパッチリしているし、いつもと違う服装だ。そもそもデンジお兄ちゃんの手持ちで私を見る度に抱きついてくるライチュウがいないし、腰にボールを下げてもいない。
デンジお兄ちゃん(?)は困ったように苦笑いをして頬をかき眉を下げた。
「おいおいレイナ、俺は違うって」
「あ、紅眞。バトルしなかったんだ」
「おー。ジャンケンで負けちった」
「え……っ紅眞君!?」
嘘!?今までの面影は何処へ!?ユイの話によれば最近進化したらしいんだけど……にしても変わり過ぎじゃない?これは優良物件だ、女の子が放っておく気がしない。誠士と一緒に街に並べてみたい……ゲフンゲフン。
『よしレイナたちも揃ったことだ、第2ラウンドと行こうぜ!』
『ああ望むところだ。次はお前とも戦いたいしな、紅眞』
「おーいいぜ!」
『アンタら、当初の目的を忘れちゃいないか』
幸矢が呆れたように第2ラウンドを始めようとするバトルトリオを止める中、晶君が人型になりナオトを睨むように近づいた。
「おいちんちくりん、このひょろっちい男は誰だ」
「こら晶、開口一番で失礼なこと言わないの!」
「はは。初めまして、僕はレイナの婚約者のナオトと言うんだ。ユイとは友人でね、よろしく頼むよ」
「婚約者?……ああ、前におしゃまリスが話していた男か」
やっぱり初対面の人間は警戒しちゃうのか、それきり晶君はナオトから離れてしまった。ていうか“おしゃまリス”って……もしかしなくても笑理?
「ごめんねナオト。晶、ちょっと事情があって……」
「構わないよ、ユイ。彼にも事情があるんだろうし、全てのポケモンが友好的とは限らないのは分かってるさ」
将来は育て屋を営みたいと考えている以上、色んなタイプのポケモンに触れ合う良い機会だと笑って答えるナオト。
……こういう前向きなところ、好きだなぁ。
思わず顔に出てしまったのか、璃珀さんに素敵な微笑みで「いい顔をしているね」って言われちゃった。
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