06


(…………へぇ、この世界にもハロウィンの催しがあるんだ)


とあるPCの一室で私はソファーに座りながらテレビを見ていた。テレビの中継先ではたくさんのポケモンたちが楽しそうに顔にペイントしていたり、ラッピングされたお菓子を受け取ったりしていて微笑ましい。

今日はハロウィンだったんだ。道理で外が騒がしいと思った。


(ま、私には関係無いけど)


前の世界でのハロウィンなんて人間がこぞって集まって騒ぐだけのはた迷惑なものだったしね。それを思い出しながらテレビの楽しそうに過ごしている人間たちの顔が映ると少しの苛立ちが募る。


《では今回のイベントの参加者の方にインタビューしてみましょう。……あ、そこのイーブイさーん!お時間よろしいですか?》
《へ?私ですか?》


ふと、その中で見覚えのある女の子の顔が映った。


「あれ……?」
『何じゃ?何かあったのかハル』


思わず言葉が零れ、一緒にテレビを見ていた翠姫が首を傾げている。画面に映っている黒髪の女の子を指差した。


「この子……」
『んぅ?……ほぅ、前に会った女子じゃな』
「あ、覚えてたんだ。あの子が着てるのってハロウィンの仮装だよね?」
『うむ、あれはイーブイじゃな。中々似合っておるのではないか?』
『何してるんだ』


紫闇がやって来た。テレビを指さす私に訝しげな目を向けるが素直にテレビの方をチラリと見ると、見覚えのある顔がいたことに一瞬驚いた様子だった。けどすぐ下らないとばかりに息を吐き捨て踵を返した。


『……どうでもいい』
「言うと思った。一応顔見知りなのに」
『またあの女子に会えるといいのう、ハル?』
「…………。」


翠姫の問いには返答せず困り顔でインタビューに答えるあの子が映ってる画面をリモコンで消した。真っ黒い画面には私の無表情と翠姫の横顔が映るだけ。


(別に、私はあの子を気にかけてるわけじゃない)


自分に言い聞かせるように心の中で呟き、気分を切り替える為ソファーから立ち上がる。


「ねぇ、折角だからお菓子買おうか。今日ハロウィンみたいだし」
『まことか!わらわはテレビに出ていたポフィンとやらが食べてみたいぞ!』
『俺は興味無いな』
「ポフィン……?この辺に売ってるかな」


興味無いと言いつつもボールに戻りいつでも出られる準備が万端だ。……“私”という隠れ蓑が無くなったら困るもんね。
肩に飛び乗り目をキラキラさせる翠姫の頭を撫でてボールに戻し、私は部屋のドアに手をかけた。

何を思うわけでもなく、ふと後ろを振り返る。そこには何もない、PCの室内が広がるだけ。


「……“また”、ね」


テレビの向こう側で仲間と楽しいひと時を過ごしているであろう彼女に向けて、届かない言葉を一人呟いた。



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