05


「もうこんな時間!?アカデミーを回る時間ほとんどないじゃん!」


時計を見るまでもなく、空は既にオレンジ色。すっかり夕焼けだ。結局アカデミーを案内することなく、ユイさんの仲間を探すだけで1日が終わってしまった。


「これはもう1日滞在するっきゃねぇな!」
「良かった……!一応滞在期間余裕もっといてほんと良かった……!」
「ユイたち、まだいてくれるの?」
『……みたいだな』
「おい、マメ助!先程の光るポケモンはなんだ!?まだ他にもあんなポケモンはいたのか!?」
「いたよー」
「よし分かった。今すぐ案内しろ!」
「帰りますよ?」
「…………。」


勢いよく出発しようとした晶さんを一言で諌めた緋翠さん。なんだか怖いのですが。
そしてふと、思いついたことがある。だけどこれは、良いのだろうか……。断られるだろうけど、ダメ元で言ってみよう。


「あの、もし良かったら……私と戦うのは……どうでしょう?」
「貴様とだと?」
「気に触るようならごめんなさい。一応先程のテラスタルは、私も実際使ったことがあるの。あのヌメイルほど強くは無いけれど、あなたにとって利益があるのなら、どうかと思って……」
「……流石の僕もそこまで鬼じゃない。テラスタルとはどういう現象か、それを実際に見せてもらえばそれでいい」
「おお、あの晶が譲歩した……!?」
「ちんちくりん、僕がテラスタルを使えるようになった暁にはまずお前を再起不能にしてやろう」
「なんで私なの!?」
「……ふふっ……」


そのやり取りは冗談だと分かっていても、面白くて。きっと彼らも彼女の反応が面白くて、つい言ってしまうのだろう。小さく笑っていると、若葉が不思議そうに私を見つめていた。


「どうしたの、シオン?」
「……ううん。ただ、いいなぁって、思ったの」


若葉の頭を撫でて、素直な気持ちを吐露した。私もいつか、彼女たちのような仲間を連れて、苦難を乗り越えて。
そしていつか、彼女の隣に立って、共に笑い合いたいと望むのは……欲張りだろうか。


「これからも頑張ろうね、若葉」
「……うん!」


私たちから芽生えた小さな芽は、どんな花を咲かせるのだろう。
未来に期待を馳せながら、私に手を振って呼ぶ彼女の元へ、少しずつ歩み寄る。


「そういえばシオンちゃん、ポケモンの言葉分かってるよね?佑真君と時々話してるっぽいのが聞こえちゃって、気になって」
「えっ!?もしかして、あなたも……?」
「お揃いだね!」
「本当に……。まさか同じ人がいるなんて……」


気をつけてはいたけれど、聞かれてしまっていたとは。でもユイさんも私と同じく、ポケモンの言葉が理解できる方だったのが不幸中の幸いか。夕焼けに染まるテーブルシティの道を歩く私たちの影は、隣り合って並んでいる。


(いつか、きっと……)


彼女と隣り合って心から笑い合いたい。友達として、きちんと名前を呼びたい。若葉は「もう友達じゃないの?」と言っていたけれど、これは私の心の問題だ。


(私に素敵な宝物をくれて、ありがとう)


“ユイちゃん”


声に出さず心の中で呟いた声無き声は、パルデアの風に吹かれて流れていく。風に紛れて彼女の耳に流れ込むその声が、どうか風の音でかき消されつつも、心に残りますようにと祈りを込めて。


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