04

テーブルシティの長階段を降りた先、様々なレストランやテラス席が広がる街中の一角。飲食系なら、この辺りを探せばいると思うのだけど……。


「その、碧雅さんとはどんな方でしょうか?」
「種族はグレイシアで、擬人化した時の姿は青い髪が特徴かな。あとさっきも話したけど無類のアイス好き」
「飲食店が多いのなら、紅眞も近くにいそうですね。あ、紅眞というのは私たちの仲間の1人です。種族はバシャーモで、中華服を着ているのが特徴……でしょうか」
「紅眞くんはパルデアの食材に興味があったようだからね」


グレイシアにバシャーモ。更に言えば碧雅さんはユイさんのパートナーポケモンらしい。私と若葉のような関係性なのかと思いきや、寧ろ立場は逆らしい。逆とは……。


「あれ、ユイたちじゃん。なんでお前らテーブルシティに来てるんだ?」


突然背後から声をかけられ、反射的に後ろを振り返る。紙袋に食材をふんだんに詰め込んだ背の高い青年が私を見て「あんた誰なんだ?」と首を傾げていた。そしてユイさんが紅眞と名前を呼ぶ。


(この人が、バシャーモの紅眞さん。……なんというか……背が、高いわね)


こちらが顔を上げないと満足に顔が見えない。スラリとした長い足が際立つスタイルの良さは男女問わず憧れるものだろう。私のことをユイさんから聞いた紅眞さんは人好きのする笑顔で「俺は紅眞、よっろしくぅー!」と挨拶してくれた。彼もまた、ユイさんとは違うベクトルでとても気持ちのいい人物だ。


「紅眞、勝手にテーブルシティまで行かないでよね」
「悪い悪い。白恵が外に出たいってせがんでさ。碧雅も外に行きたそうだったし……ちょっと出てってすぐ戻ればいいかな〜って思って付き添ったんだ。そしたらめちゃ上手そうな食材のあるお店見つけちまって、店員のおっちゃんと話が弾んで……気づいたらこれ貰った!」
「もー……。ってこれ、貰い物なの!?」
「まぁ……!」


コミュニケーションの高さの賜物だろうか。若葉が「すっごーい!」とはしゃいでいる。なるほど、時には話術を使うことでお金を使う頻度を減らせるのね……。


『シオン、変な勘違いをするな。本来ならキチンと料金を支払わなければいけないからな。アレはまた特別だ』
「そうなのね。でも確かに、彼の気質に触れたら、私も記念に何かをあげたくなってしまうわ」
「……あ、コジオ」
『なんだ、俺のことか?』
「ちょっと頼みがあるんだけど、塩かけてくれる?」
『はぁ?藪から棒になんだお前は』
「佑真、どうかした──」


佑真が誰かに絡まれているようだったので、彼の方を振り向くと、また見知らぬ少年がいた。その手にはコジオを模した、以前食べたアイスと更に別のフレーバーが2つ乗せられた……要はトリプルサイズのアイスを片手に持ちながら、彼は何言わぬ顔で佑真を見つめていた。雪のように涼しげでクールな容貌と、手に持つ可愛らしいアイスクリームのギャップがなんとも言えない。ユイさんと同じ青い瞳に、青い髪。そして寒冷な場所でないと見かけないであろう暖かな格好をした姿。


「もしかして……碧雅さんではありませんこと?」
「……お前、僕のこと知ってるの」


怪訝な表情を浮かべながらペロリとアイスを舐める。確か彼の種族はグレイシア……こおりタイプだったはず。それを表すように寒さに強い格好をしているのだろうか。それにしても、擬人化したポケモンをここまで沢山見ることになるとは思わなかった。まだ報告例が少ないらしいけど、今回の件をジニア先生に話したら驚かれるのではないだろうか。
見知らぬ人間が自分のことを知っていた、その点から警戒され始めているようなので、私は自分の素性を明かす。


「私、今回グレープアカデミーにいらしたユイさんの案内役を任されました、シオンと申します。今はテーブルシティに行かれたあなたを含め、他の仲間を探していたところです」
「案内役……シオン、ね……。ユイがお世話になってるようでどうも」
「いえ、私も新鮮な体験ができて、とても楽しいですから。……ところで、佑真に何かご用でしたの?」
「ああ、そう。コジオソルトアイス、珍しい味で夢中になって食べたら塩の部分がもう無くなっちゃって。良かったらかけてもらおうと思って」
『見返りもなしにか』
「…………、塩代」


真顔でどうするか考えた後、塩の料金を支払おうとしている碧雅さん。なんだか最初の冷たい印象とだいぶ違うのですが。無類のアイス好きと聞いてはいたが、それは本当のようだ。佑真は『そんなもんいらん』と言い、離れた場所でユイさんたちと戯れる若葉と、続けて私を見て小さく息を吐いた。


『良ければ、あの2人にアンタたちの旅路の話をしてやってくれ。俺は野生で生きていた分外のことは少なからず分かるが、2人……特にシオンは、まだジムにも挑戦したことがない。アンタたちの話に、少なからず学ぶことがあると思っている』
「……佑真」


そんなことでいいのと碧雅さんが小さく呟く。けれど確かに、彼らがどういった旅路を経てきたのか、私としても興味があるのは事実だった。


『手を出せ、前賃だ』


サラサラと塩を振りかけてあげた佑真に、碧雅さんは少し考えた後「そんな大したことじゃないけど」とユイさんの元へ向かい、話を通してくれるようだ。


「ねぇユイ、後でシオンに旅の話しておいて」
「あれぇ!?碧雅どこから出てきたの!?っていうかもうシオンちゃんのこと知ってるの!?」
「うるさい」
「あー!コジオソルトアイス!シオンも前食べてたよね!」
「ふふ、そうね。今度機会があったら違う味も食べてみましょうか」


さて、何はともあれ仲間も揃ったことだし…………?


(1.2.3……あら、5人しかいない?)


ユイさんの仲間探しが終わったと思い、改めて人数を数えるけれど、1人足りない。そういえば、紅眞さんが“白恵”という名前を先程言っていた気がする。聞けばその白恵さんはまだ幼い子どものトゲチックのようで、どこに行っているか、ユイさんたちも心当たりは無いらしい。


「この辺りのポケモンはそこまで強くないから、白恵くんでも心配は無いだろうけど……早く見つけないとね」
「モーモーミルクぶら下げたら出てこねぇかな」
「そんな、碧雅じゃあるまいし」
「ユイって時々命知らずだよね」
「冗談に決まってるじゃん!」


…………ちゃー……ん……


「あら?何か声が……」


……ちゃーん……


「向こうの方からじゃない?」


若葉が聞き耳を立てて声の方角を告げる。プラトタウン側の方から聞こえるの?若葉の耳の良さを信じ、みんなで東門を出ると、白いポケモンがふよふよと飛びながらこちら側に近付いているのが見えた。


『ユイちゃ〜ん!』
「あ、白恵!」
『後ろから何かが着いてきてるな』
「え、何かって……!?」


白恵さんの後ろから追いかけてきているのは、ヌメイルだった。だが普通のヌメイルとは異なり、その姿は紫に光り輝き、頭上にはドクロのマークが……ってもしかして、テラスタルしているの!?


『みてみて、きらきらー!』


追いかけられてる張本人は至ってケロッとしていて、寧ろユイさんにそれを見せたかったらしく笑っている。「何あれぇ!?」とユイさんが驚いた声をあげた。


「へぇ、あれがテラスタルかぁ。面白い現象だね」
「頭についてるあのドクロって何、どくタイプってこと?」
「てらすたるってなんだ?寺?」
「えーと……パンフレットによると、パルデア地方でのみ見られる現象だそうですよ。我々の本来持つタイプと全く関係ないタイプにもなれる、未知の現象ですね。あのヌメイルは碧雅の仰るとおり、現在どくタイプに変化しているようです」


待ってください、何故みなさんそんなに冷静なんですか。


『あれは……南4番エリアにいるヌメイルだな。よくここまで連れてきたな』


佑真も感心したように納得してないで!ああ、ヌメイルがとうとう怒ってヘドロばくだんを吐いて……!このままじゃ、彼に当たってしまう!


「若葉、このはでヌメイルの視界を塞いで!」
『任せて!』


若葉がニャオハの姿に戻り、沢山の新緑の葉を撒き散らす。ヌメイルは見事視界が塞がり、ヘドロばくだんは見当違いの方向へ放たれた。けれど今度はターゲットが若葉の方へ。ヌメイルがズンズンと若葉に近づき、りゅうのいぶきを吐き出した。


「若葉!」
「白恵、若葉く……ニャオハの前へ!」
『ばびゅーん』


飛べる分彼の方が素早い。白恵さんが若葉の元へ飛び、庇うように前に出た。そのまま祈るように手を合わせ、白恵さんがユイさんの持つボールに吸い込まれていく。りゅうのいぶきが若葉に当たると思い、駆け寄って庇うように前に出る。衝撃に耐えるため目をつぶった瞬間、不思議な光が放たれたのを瞼の先から感じた。恐る恐る目を開けると……不思議な防御壁を私たちの前に張り、守ってくれているポケモンの姿が。


『白恵を助けていただき、ありがとうございます。シオン様』
「……も、もしかして……緋翠さん?」


両手を前に突き出したまま私の方を振り返り、小さく頷くポケモン。余所見をしているのに目の前のひかりのかべはビクともせず、りゅうのいぶきを防ぎ切る。


『サーナイトは、忠義を誓ったトレーナーためなら空間を捻じ曲げるほどの力を発揮し、己の命を捧げるという。しっかり見ておけ、シオン。先達の戦い方を』


佑真がやって来て後学のために目を離すなと促す。私自身、その光景から目が離せなかった。あれがサーナイト。緋翠さんの、本来の姿。心の通いあったトレーナーとポケモンは、こんなにも息がピッタリなのね。


「ヌメイルには悪いけど……緋翠、サイコキネシス!」
『かしこまりました』


サーナイトが放つサイコキネシスはどくタイプに変化しているヌメイルに効果抜群。堪らずテラスタルが解け、ヌメイルはそのまま逃げ出してしまった。ユイさんが紅眞さんにこれヌメイルにあげてと黄色い大きな木の実を渡していた。佑真に聞いてみるとオボンのみという体力回復に効果がある木の実らしい。


『シオン〜!』
「若葉!無事で良かった……!」


抱き着いてきた若葉をしっかり抱き留める。怪我がなくて本当に良かった。助けてくれた緋翠さんにもお礼を伝えると、ニコリと微笑まれた。


「シオンちゃん!若葉君も、2人とも大丈夫?」
「えぇ。……ごめんなさいユイさん、私足でまといになってしまって」


無我夢中だったけれど、考えればそもそもユイさんたちは私より数段こういったことに慣れているのは考えれば分かっていたことだった。私が余計なことをしてしまって、却って迷惑をかけてしまったと眉を下げて謝罪する。ところがユイさんはなんで?と目を丸くする。


「そんなことないよ?あの時シオンちゃんが若葉君に技を指示していなかったら、きっとヘドロばくだんが白恵に当たってた。どくタイプは効果抜群だったし、若葉君が時間を作ってくれたからこそ白恵もバトンタッチすることができたし、こっちがお礼を言う方だもの」
「……そう、かしら……」
「うん!だからありがとう、シオンちゃん!」
『ありがとう〜?』
「白恵はまずみんなにごめんなさいして」
『はーい、ごめんなさーい。……ところでおねえちゃん、だぁれ?』


トゲチックのつぶらな瞳が私を捉える。そういえば、自己紹介する間もなかったわね。もう何回目になるか分からない自己紹介を終えると、白恵さんは擬人化の姿を取り、私の目をじーっと覗き込む。


「よろしくね、シオンちゃん」


私の目を見たままそう言ってきたので、ええと頷く。白恵さんはそのままユイさんの元へ駆け寄ろうとしていたが、その前に踵を返し私の服の袖を引っ張ったので、どうしたのかとしゃがみ込む。


「こんどは、みらいのどんちゃんともあそぼうね」
「えっ……?」


耳元で囁かれた内容に心臓がどくりと一際大きく波打ち、驚いている間に白恵さんはユイさんの元へ戻って行った。私は思わず自分の胸に手を当てていた。……今の言葉って恐らく、ミライドンのことよね?誰にも言ってなかったと思うのに……。


『シオン、オレあの子ちょっと怖いよ』
「私も、少し薄ら寒い気配がしたわ……」


最後にちょっとホラーな経験をしつつも、無事ユイさんの仲間探しは終わりを告げた。



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