03

「失礼いたします。マスター、先に校内を回らせていただきありがとうございます」
「緋翠、おかえり!いいんだよー、さっきの男の人には会えた?」
「えぇ。サワロ様のお蔭さまで有意義な話をすることができました。……ところで、こちらの方は?」
「えっとね〜……──」


今度は緑を基調としたスーツを身に纏う穏やかな雰囲気の青年。1つ1つの所作が私から見ても洗練されており、前の世界に残してしまった使用人やじいやを思い出した。そして恐らく、璃珀さん同様彼もポケモンなのだろう。


「初めましてシオン様。私はサーナイトの緋翠と申します。以後お見知り置きを」


恭しく手を添え、私に頭を下げる緋翠さん。サーナイトという種族は、確かパルデア地方にもいたはずだ。比較的人間に近い体格をした、上品な雰囲気のポケモン……だったような。
そういえば、璃珀さんが言っていた“残念な知らせ”とは何なのだろう。挨拶もそこそこに、その話題を出すと璃珀さんが困ったように笑った。


「実は、残りの3人がアカデミーを出てテーブルシティにまで行ってしまってね。彼らを呼び戻さないといけなくなってしまったんだ」
「えっ!?」


なんというか……自由な方々だ。それに残りの3人ということは、ユイさんはポケモンを6匹、つまり連れ歩ける最大数まで仲間に加えているということだ。私は特殊な経緯で加入したミライドンを除くと、まだ若葉と佑真しか自分で加入させた仲間がいないから、それだけポケモンを仲間にしていることも、彼らと絆を育んでいることも、素直に尊敬に値する。


「それでは先に、テーブルシティに参りましょう。どこに行ったか心当たりはございませんこと?」
「碧雅はアレだよね、えっと……何アイスだっけ。確かパルデア地方のポケモンが名前に載ってた……」
「もしかして……コジオソルトアイスのことかしら?」
「そうそれ!飛行機に乗ってる時からずっと楽しみにしてたみたいだから、碧雅はアイス屋さんにいるかも。ソルトアイスまでは分かるんだけど、“コジオ”って何のことか、シオンちゃん分かる?」
「コジオでしたら……佑真、出てきて」


説明するより見てもらった方が早い。それに私も仲間の紹介をしなくては。若葉もニャオハの姿に戻って佑真と並び、それを見たユイさんが再び目を輝かせた。


「こちらがコジオの佑真、そして先程の少年がニャオハの若葉。2人とも私の仲間です。よろしくお願いしますわ」
「か、可愛い〜!どっちもちっちゃい!よろしくね、若葉君に佑真君!」
『うん、よろしくね!』
『……よろしく頼む』
「それじゃあ私も。今この瞬間だけ頑張って、晶!」
『……ちっ』


出てきたのは白い綿雲のような翼を持つおとぎ話に出てきそうなファンシーなポケモン。こんな愛らしいポケモンが舌打ちをしたことに内心驚くと同時にスマホロトムで図鑑を調べる。種族はチルタリス、ひこう・ドラゴンタイプのポケモン。
チルタリスは璃珀さんたちと同様擬人化の姿を取り、私を冷たく見下ろす。この世界にも和服の概念があるのかと1人関心した。


「……晶、以上だ。もう僕はボールに戻るぞ」
『ちょっと!シオンになんでそんなに冷たいの!』
『若葉。向こうにも事情があるのかもしれないだろ』
「晶……さん。どうぞよろしくお願いしますわ」
「フン」


小さく息をならしそのままボールに戻ってしまった。ユイさんが苦い顔をして「ちょっと訳ありで」と晶さんの代わりに謝罪をしてきた。私としてもどういった経緯があるのか気にはなるものの……不躾に尋ねるべきではないだろう。この世界にも、様々な事情を抱えた者がいるのだろうし。

さてとりあえず、まずはアイス好きという碧雅さんを迎えに行かなければ。


「宝探しならぬ、仲間探しですね」


クラベル校長が楽しそうに笑い、テーブルシティに向かう私たちを見送ってくれた。



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