06

「碧雅、焔君にみずのはどう! 紅眞は來夢ちゃんにブレイズキック!」

「焔、あなをほる! 來夢はサイコキネシスで紅眞君の足を止めて!」

みずのはどうが直撃する前に焔が地下に逃げ込み、紅眞のブレイズキックの動きをサイコキネシスで止める。

相性不利なこともありサイコキネシスを振り解けない紅眞は正にうってつけの的だった。

「今度こそ当てる! 紅眞君にあなをほる!」

『っ、喰らえっ!』

『ぎゃー!』

「もう一度みずのはどう!」

互いに攻めて、攻められて。みずのはどうが直撃した焔は膝をつくが、その闘志はまだ消えていない。

『……僕が、僕たちが……絶対、勝つんだ!』

『……“もうか”だ』

厄介な、というように碧雅が特性が発動したことを悟る。

焔の頭上で燃える炎は通常より一回り以上大きく燃え上がっていた。

「焔、だいもんじ!」

ほのお技の威力がさらに上昇し、本人のやる気も上がっている。渾身のだいもんじはフィールドを覆い尽くす程の威力を誇っていた。

「みずのはどう……じゃ消えないよね、これ!」

『そもそももうか発動前も相殺してない、威力弱めただけ』

「……なら碧雅はでんこうせっか、紅眞はとびはねるで避けて!」

「來夢、炎の中に突っ込みながらギガインパクト!」

『〜〜〜っ、行ける、行ける! 行っけぇええぇ!!』

一瞬ビクついたものの、勇気を奮い立たせて來夢が物凄い勢いで炎の中に突っ込んだ。

炎を纏った渾身のギガインパクトがでんこうせっかで炎を避けた碧雅に向かって突っ込む。

敢えて受け止めようとしたのか、シャドーボールの力を溜め込み口元で構えたまま、碧雅がギガインパクトを喰らうと同時にゼロ距離で來夢にシャドーボールを当てる。

ギガインパクトの衝撃が激しく土煙が蔓延る中、2匹の相棒は互いに揃って体力が尽き、地に伏していた。

「碧雅!」

「來夢!」

どちらともやはり相棒が倒れるのは辛いものがあるのか、お互い唇を噛み締めてつつもボールに戻す。



『……ってことは残りは』

『僕たちだね』



残りはお互いほのお・かくとうのゴウカザルとバシャーモ。だが焔はもうかが発動しているように体力が少ない。確実に、かつ短期戦で終わらせなければ紅眞はどんどん素早さを上げて手に追えなくなる。

「焔、もう一度だいもんじ!」

「紅眞、こっちももう一度とびはねるで避けて!」

広範囲のだいもんじを避けるため空中へ飛び上がって逃げる紅眞。

……レイナが待っていたとばかりにニヤリと笑った。

「そう、待ってたよ! 焔、“フィールドをインファイトで叩き壊して!”」

『なんだぁ!?』

焔が拳を次々と地面に叩きつけ、それは岩肌のようにゴツゴツと荒々しいフィールドへと姿を変え、着地の足場としては不安定なバランスで岩山が形成される。

……先程のような安定した足場でなければ、あのじしんは使えない!

「岩をシーソーのように利用して、飛び上がる!」

『……えい、やっと!』

平たい岩が上手いことシーソーのように活用でき、勢いをつけて紅眞より高く飛び上がった焔。陽の光を浴びて、炎がより一層燃え上がった。

「フレアドライブ!」

『いっ……けぇええぇ!!』

今日一番と言えるくらいの炎を纏ったフレアドライブが身動きの取れない紅眞を直撃し、岩肌のフィールドに突き刺さる。

焔は渾身の一撃を加え、フレアドライブのダメージもありもう限界のようだった。

『ハァ……ハァ……!』

『…………。』

紅眞まだ、立っていた。

だが直後、ぐらりと揺らめき、フィールドに力なく倒れる。スローモーションのように倒れた光景を見て、僕は目を伏せる。

そして長かったようで短かった時間の終わりを告げた。

「……バシャーモ、戦闘不能。ゴウカザルの勝ち。
よって勝者、ナギサシティのレイナ!」

「「……は、はぁぁ〜……!」」

2人ともその場で力が抜けたように座り込む。ここまでのフルバトルは初めてだったからね、僕も手に汗握る戦いを間近で見て、心臓がバクバクしているし。

「お疲れ様だな、2人とも! 良いバトルだったぜ!」

「小娘どもにしちゃあ健闘したんじゃねぇか。
……だが最後で全部台無しだ、トレーナーなら最後までシャキッとしてやがれ」

「銀嶺、口を慎め。お2人とも、お疲れ様です。
仲間の回復は私が研究所で行いましょう」

「いい眠気覚ましになったかも……ぁふ」

「嘘をつくな。お前もしっかり見ていたのバレているぞ」

「レイナ! やったな、やってくれたなー!」

「……すまないレイナ。私は今回殆ど役に立てなかった」

「だからアンタは気にしすぎだ。それにアンタに頼らなくとも俺たちだってここまで戦えるってところを見せられたんだ。
かえって良い経験ができたと言えるぞ」

「……ありがとう、みんな。……誠士にはいつも頼りにしっぱなしだから、たまにはこういうことだって起こるよ。
でもおかげで焔のやる気が増して、結果として勝てる要因になったんだから、誠士はいつまでも気にしないの!」

「お疲れ様です、マスター」

「負けちゃったぁ……。みんなありがとうね」

「ユイちゃん、がんばった。よしよし」

「だから雪うさぎだけのアタッカーでは無理があると……まぁ良いだろう。
次は僕にバトンタッチしてもらうからな。あの素早さを実際に体験してみたい」

「いや今日は疲れたからもう休もう?」

「お兄ちゃーん!」

「ナオトー! バトルは終わったの?」

ああ、メイが天馬を引き連れてこっちにやって来ている。その手に持っているカゴにはいつの間に作ったのか、色とりどりのポフィンが敷き詰められていた。

なんとかビデオも無事に撮れたようだし、來夢たちが回復している間に小休止しよう。

その後は……そうだな。この前カレーの作り方を調べてみたから、こっそりと台所を借りてカレーを作ってみよう。

アレなら野菜を炒めてルーを入れて煮込むだけだから、きっといけるはずだ。

(隠し味は入れれば入れるほど良いらしい。それなら……)

「ちょっと待てナオト。お前何か変なこと企んでないだろうな?」

「緋色? ただカレーの隠し味を考えていただけだが」

「…………あぁ、分かった。なら後で一緒にやるぞ。
研究所を事故現場にしたくない」

全てを悟ったような表情で緋色がメイからポフィンを貰う。

相変わらず彼には迷惑をかけてしまうなと思いつつも、勝者の婚約者が喜ぶ顔を胸に秘め、激闘を経た彼らの為に美味しいカレーを作ってやるんだと違うのだった。



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