05

アクシデントもありフィールドを整地したところで、再びバトルを再開する。

今のところ両者ともに互角の戦い。後半の戦局はどう変化していくのか。

「それじゃあ……笑理、來夢、レッツゴー!」

「璃珀、紅眞、お願い!」

でんき・エスパー対、みず・ほのお・かくとう……状況から考えれば有利なのはレイナの方だ。だがなんだろう、このモヤモヤとした気持ちは?

何かを見落としているような……。

だが僕個人の考えはこのバトルには関係ない、後半戦がスタートした。一番初めに動いたのは意外にも璃珀からだった。

「璃珀、笑理ちゃんにさいみんじゅつ!」

『中々容赦ないね、ご主人』

「笑理、ほうでん! 璃珀さんを近づけないで!」

『分かってるよー!』

さいみんじゅつを防ぐため放った全方位のほうでん。その電気を活かした來夢がサイコキネシスで雷の龍を模した物体を作り、璃珀に迫る。

だが璃珀はその余裕な態度を崩さなかった。

「紅眞、間に入ってブレイズキック!」

『任せとけ!』

璃珀の前に立ち蹴りを放つことで守り通した紅眞。だが完全に相殺したとはいえず、僅かにダメージを喰らっただろう。

そして紅眞の特性が発動し、彼の素早さは時間と比例して増していく。

「そのまま來夢ちゃんにもブレイズキック!」

『あわわわ……!』

「焦っちゃダメだよ來夢! 笑理、捕まえなくていいから來夢の前で最大限くさむすび!」

『う、うん!』

速さはポケモンバトルにおいて何よりも重要だが、目で獲得出来る情報は減っていく。

駆け出した紅眞には、笑理がくさむすびを発動したのに気づくことは無い。笑理が最大限出せるくさむすびの輪っかは大きく、それこそ來夢のような緑の球体。

速さで正確に視覚情報を整理できない紅眞にとって、それを來夢と錯覚させるのは難しくなかった。

『あ、あり、ハズレ? ……ってなんか絡まった!?』

「今だよ來夢、サイコキネシス!」

「璃珀、ミラーコート!」

『了解だ』

今度は璃珀が紅眞を庇う形で前に立ち、サイコキネシスを受ける。

ただ鏡のように輝きを伴った璃珀は攻撃を倍返しで跳ね返し、その衝撃は來夢を襲う。

「笑理、くさむすびで璃珀さんを捕まえて!」

『! ……なるほど』

「そのまま……ほうでん!」

くさむすびで身動きの取れない璃珀をほうでんが襲う。

普段余裕な態度を取る璃珀も効果抜群はキツいみたいで、叫びはしないものの顔を歪めている。電気が止んだ後、ピリピリと身体に痺れが残っているようだ。

ほうでんは全方位技、ユイはなんとか紅眞だけはとびはねるで空中へ飛び上がる形で一時避難させた。

「ほうでんの影響を來夢も受けちゃったから……來夢はじこさいせい!
笑理は璃珀さんにとどめの──」

「紅眞、とびはねるの勢いつけたまま……地面を蹴って!」

『おう! ……どーっ、りゃっ!!』

とびはねるから技を切り替え、長い脚が真っ直ぐに伸びたまま地上と接触する。

落下の勢いを殺さぬまま、自身の力と混ぜた渾身の蹴りは“じしん”となり、フィールドのポケモンに襲いかかる。

特に効果抜群だった笑理はひとたまりもなく、小さな体がフィールドに倒れ伏した。

(來夢はともかくとして、璃珀もまだ体力が残っているのか)

「あれは特性のふしぎなうろこが発動していますね。
まひ状態になったのが逆に功を奏し、じしんの威力を抑えたのでしょう」

青刃がビデオを回しながら特性を教えてくれる。波導で僕の考えていることを読んだのだろうか。

先に追い込まれたのはレイナ。序盤に出した焔を再度繰り出す。ノーダメージだったのがせめてもの幸いか。

『焔、頑張ろうね』

『……うん。今度こそ、ちゃんと……!』

焔は序盤のあなをほるを当てられなかったのが相当悔しかったのか、その青い目には静かな闘志が燃えている。

その焔を見て紅眞も思うところがあるのか、好戦的な笑みを見せた。

『にひっ、そう来なくっちゃな! よっしゃ璃珀、このまま一気に……』

「紅眞、ティナちゃんに教えてもらった“あの戦法”、やろう!」

『今かよ!?』

『タイミングとしては今が最適だと思うけどね。きみも充分あったまったろう?』

『んー……まぁな。仕方ねぇ! 焔、來夢、またな!』

「紅眞、“バトンタッチ”!」

その技名を聞いた途端、背筋がゾクリとくるものを感じた。僕と同様、周りの仲間たちもユイたちの意図に気付いたのか、全員ドン引いている。

「うっわ……マジかよ」

「ハッ、ユイの小娘どもはこれを狙っていたわけか」

「上手く機能すれば強いけど……よく持っていけたね」

「だがまだ勝負は見えていない。焔に受けたダメージも完全には回復していないし、逆転のチャンスもあるだろう」

「……なぁ、バトンタッチってなんだ?」

不意に後ろから勇人の声が聞こえた。声のした方を振り向くと、ちょうどタイミング良く回復に行っていた前半のバトル組が帰ってきたところだった。

……誠士は今回分かりやすく気落ちしているが、晶が怒っているような慰めているようなよく分からないことを捲し立てている。

隣にいた幸矢が分かりやすくため息を吐きながら勇人に技の効果を説明する。

「あの技は、使ったポケモンの上昇した能力をそのまま次のポケモンに残したまま交代できる技だ。
紅眞の特性はかそく、そして残されている控えのポケモンは……ここまで言えば分かるだろう」

「……え、」

勇人の愕然とした声と共に姿を現したのは、碧雅だった。

誠士を突破した攻撃力に、紅眞のかそくで増した素早さが付与された凶悪なグレイシアが完成だ。

……これがユイの狙っていたことか。まだ碧雅は4つの技全てを披露していないが、恐らくシャドーボールは枠に入れているだろう。

要は現在残っているレイナの手持ち全てに弱点を突けるということだ。

(ここまで見ていて、2人のバトルスタイルは似ているようで異なっている)

2人とも自分のポケモンを信じて戦うのはもちろんだが、レイナは個々のポケモンの能力を活かし、確実にダメージを与えていく全員に突破力がある攻撃型の戦法。

対してユイは仲間に補助技を多めに使い、ラストの相棒に全てを託す繋ぐ戦法。逆を言えば碧雅が倒れてしまえばそれまでだが、噛み合った時の突破力は中々のものだろう。

「……うん、面白い」

レイナが一人静かに、冷静に戦局を見据える。その声色に恐怖はなく、ライバルに対する称賛だった。

『俺たちがここまでお膳立てしたんだ。大活躍してくれよ? 碧雅くん』

『……お前に言われなくとも、速攻で仕留めるつもり』

『來夢、一緒に頑張ろ』

『う、うん。勝ちたいもんね』

「碧雅、シャドーボール!」

動き出したのはもちろん、碧雅からだった。目に見えないスピードで來夢を狙ったシャドーボールは避けきれず、來夢に直撃する。

事前にじこさいせいで体力をリカバリーしていたのが幸いで、まだ來夢の体力は残っていた。

「璃珀も回復しなきゃ……じこさいせい!」

「させないよ! 來夢、ドレインパンチ!」

2つの腕が光を伴い、璃珀の体力を奪う。元々ほうでんで体力がほとんど無かった璃珀は後の仲間に全てを託したか、特に避けることもせず技を受止め不敵に微笑んでそのまま倒れた。

労いの言葉をかけたユイもラストスパート。紅眞が再びフィールドに現れた。

この対面は……。

「ちょうどお互い最初の2体が残ったな」

「へーぇマジか! 偶然でも良い展開じゃねぇか!」

「……おい、ちょくちょく気になってたが緋色。
お前ビデオ途中からまともに回してねぇだろ」

「やっぱこういう熱い対決は直接目で見た方がいいじゃねぇかよ。
だいじょーぶだって、青刃が撮ってくれてるし」

「ああ、安心しろ。奥様のご活躍だけはしっかりとこのビデオに収めている」

「……ダメだ。ユイの分撮ってやらねぇと博士に叱られちまう」

泣いても笑ってもこの対戦で終わる。最終戦がスタートした。



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