03

肌を突き刺すような冷気が流れ堪らず頬を撫でる。霧が晴れ、目に入ったのは誠士が力無くスローモーションのようにフィールドに倒れ伏すところだった。

賞賛か感嘆か、ヒューゥ♪と緋色が軽く口笛を吹く。

『審判、仕事してくれる』

「! あ……あぁ。
ガブリアス、戦闘不能。グレイシア、チルタリスの勝ち」

どこに隠れていたのか、呆気に取られている僕に碧雅が催促をしてきた。レイナが悔しそうに誠士に労いの言葉をかけ、ボールに戻す。

なるほどなぁと銀嶺が戦況を冷静に分析する。

「ありゃあ碧雅の小僧がドラゴン小僧共が互いにしか目が向いていない状況で気付かれない距離を保ちつつ誠士の小僧の背後に回ったんだ。
その直後しろいきりで視界が覆われ、かつドラゴンクローで光った腕を的にして一瞬でれいとうビームで仕留めた。
……始めから誠士の小僧だけを狙っていたな」

「だとしても、あの誠士があんなに呆気なく倒されるなんて……」

「どんな強者であれ、やられる時はあっという間だぜ。つーか言い換えればそれだけ向こうも誠士を警戒してたってことだ。
仲間を入れ替える手もあるが、残りのメンバーを考えると誠士にはちと荷が重い。地下で潜伏していた焔も足音が複数あっちゃあ、どこを狙えばいいか難しかったかもしれねぇな」

『……ごめんレイナ、誠士』

「謝らないで焔。私も上手く指示出せなかったから」

『……はー……熱くて痛い。晶が代わりに受けてくれたら良かったのに』

『ほざくな雪うさぎ。……どうするんだちんちくりん、予想以上に雪うさぎがダメージを負ったぞ』

「うーん……じゃあ、晶が戻ろうか」

互いに次の手を決めたらしい。レイナは焔をボールに戻し次に繰り出したのはブイゼルの幸矢にボーマンダの勇人。

ユイはダメージを負った碧雅をそのまま残し、晶をボールに戻した。代わりに繰り出したのは、僕たちがまだ目にした事の無いポケモンだった。

「サーナイト……!」

「……ってことは、やっと緋翠がキルリアから進化したんだねぇ……ぐぅ……」

「澪、寝るな。お前昔あいつに負けたことあっただろ」

「そんなこともあったっけ……ふぁ〜ぁ……」

気にしていないよう振舞っているが澪、僕は気付いているからな。お前がうっすら目を開けてしっかりバトルを見ているのを。

『おっしゃあ! 誠士の仇はとってやるからな!』

『どうするレイナ。手負いの碧雅を叩くか、防御壁を張られると厄介な緋翠から叩くか』

「できればここで碧雅君を倒しておきたいけど……緋翠君がそう簡単に許してくれなさそうだよね」

『ねえ、僕もボールに戻りたいんだけど』

『碧雅、マスターにはちゃんと考えがあるようですよ』

「ごめんって! この前緋翠の技を調べてみたら、面白そうなのがあったからやってみたくって……」

『……まぁいいや。戦闘不能にはさせないでね』

勇人が滾って堪らないというようなギラギラした目を向けている。特性のいかくが発動するが、対する2匹は攻撃力はそこまで高くない。今回は効果的に働くことは無さそうだ。

第2ラウンド、スタートだ。先行したのは素早さの関係上、レイナからだった。

「勇人、碧雅君にしねんのずつき! 幸矢もアクアジェットで碧雅君に攻撃!」

『おうよ!』

『行くぞ』

「れいとうビームで牽制して!」

一気に碧雅を叩きに来る2匹に対してれいとうビームを指示するが、片方は退けてももう片方は難しい。

勇人はれいとうビームを交わしたため軌道がズレたが、幸矢は真っ直ぐ碧雅を突き抜けるようにアクアジェットをぶつけてきた。流石の碧雅も体力が危ういようで、立ち上がった際に膝折れする。

あと少しで倒せそうだ……!

「緋翠、碧雅に向けて“いやしのはどう”!」

『かしこまりました』

“いやしのはどう”

それはシングルバトルではほとんど使うことのない、ダブルバトル向けの技だ。

レイナも聞き覚えは無いが技名を聞いてなんとなく効果が分かったのか、幸矢に再びアクアジェットを指示する。

だがその前に技が発動し、優しげな光が碧雅を包み込む。光が晴れたその姿は体力が先程よりも回復しているように見えた。

その代償として緋翠がアクアジェットを喰らってしまうが、まだ余力はある。

「碧雅、戻って!」

(……? ユイは何を企んでいるんだ?)

回復した碧雅を戻し繰り出したのは、初戦に出ていた晶だった。晶を見た勇人の目が闘志を燃やしている。

『待ってたぜお前が来るのをよォ! 欲を言えば紅眞とも戦りたかったがな!』

『アンタな……今回は協力して戦うんだ。一人で突っ走るんじゃないぞ』

『わーってるよ! さっきのアイツらみたいに背中に乗ってもいいんだぜ?』

『ハァ。アンタは加減が効かないから振り落とされそうだな』

「ふーたーりーとーもー! 喧嘩しないようにね!
さっきの挽回いくよ!」

『てっきり璃珀が出てくると思ったのですが……晶ですか』

『なんだその言い草は、僕じゃ不満なのか』

「晶が“出せ出せ”ってボール揺らしまくるから、その熱意を買おうと思って。でも相手と相性悪いけど大丈夫?」

『だからこそより燃えるというものだろう。……だがせっかくりゅうのまいを使ったのに、無駄足になったのが惜しいが』

会話もここまで。動き出したのは勇人だった。

「私たちも負けてられないからね!
勇人、しねんのずつき! 幸矢はその後ろからでんこうせっか!」

勇猛果敢に翼をはためかせ飛び込んでくる勇人を隠れ蓑に、幸矢が背後からでんこうせっかで接近する。

どちらも狙いは晶のようでそれを真っ向から受け止めようとユイはコットンガードを指示した。

柔らかな羽毛がしねんのずつきの衝撃をやわらげるが相手はボーマンダ。羽毛を突き破り晶に見事直撃した。

『ぐっ……!』

『晶! …………がっ、!』

『仲間に気を取られ俺から目を逸らすとはな』

「やば、緋翠! リフレクター!」

晶を狙っていたと思った幸矢は、あのスピードを正確にコントロールし吹っ飛ばされた晶に気を取られた緋翠にでんこうせっかを見事当てた。

遅れてリフレクターを展開するが、喰らったダメージは2匹ともかなりのものだろう。

よし、とレイナが勇人にアイコンタクトを送る。勇人もそれを理解したようでニヤリと笑った。

「大暴れしちゃって! げきりん!」

『任せとけ! 離れてろよ幸矢ァ!』

『……言われなくともそうするさ』

『ぐっ……、ひっつき虫には効果がないのに、げきりん?』

『マスター、如何いたしますか』

「……緋翠、晶を庇いながらリフレクターを張れる?」

『やってみます』

フェアリータイプに効果がないのにも関わらず放ったげきりん。

レイナの意図は読めないままだが彼女を信頼しているのか、赤く光った目を見開き縦横無尽に勇人は大暴れする。

戦況を見なくてはならない僕たちも右往左往、嵐のように荒れ狂う目の前の龍に恐れを為しながらその光景を眺めていた。

僕たちでさえ追いつくのに精一杯なんだ、戦いながらとなると……!



(そうか……!)



暴れれば暴れるほどいい。目の前に理性を失い暴れる相手を見定めながら仲間を庇い戦うのは相当に神経を使う。

そしてどうしても周りへの注意が散漫になってしまう。追い打ちをかけるように舞い散る砂埃が視界を暗くし、狭くする。

(緋翠はともかく晶はアレを喰らったらアウト。だから余計に警戒する。
そしてそこに近付くのは……)

「幸矢、今! れいとうビーム!」

……まるで先程の意表返しだ。

暴れる勇人に距離を取った皮肉か、気を取られている間に近付かれた幸矢かられいとうビームを喰らった晶は避け切れずそのまま倒れた。


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