02




「ユイお姉さん、こんにちは!」

「メイちゃーん!」

「お邪魔します、ナナカマド博士」

「今日はよろしくお願いします」

「うむ。よく来てくれた、3人とも」



メイはユイたちに挨拶を交わしたあと、早速研究所のポケモンに会いに行き、付き添いとして天馬と助手が同行してくれている。

研究所の外に整備されているバトルフィールドに案内され、今回審判役を買って出た僕にナナカマド博士が何かを手渡してきた。ビデオカメラ?

「来てもらって大変申し訳ないが、今朝急用ができてしまってな。バトルの様子をビデオに収めて貰えたらと思うのだが……」

「分かりました。では……青刃、頼むぞ」

「承知しました」

博士は研究者だ。急な予定が入ってしまっても仕方ないだろう。

念の為もう一台借りて……こっちは緋色に撮ってもらうか。

レイナとユイは互いに握手を交わし、女性同士会話が弾んでいる。とてもこれから一戦交える者同士とは思えないくらい、和気あいあいとした雰囲気だ。

「それじゃあ2人とも、そろそろ始めるとしよう」

ナナカマド博士を見送り、2人に声をかける。2人とも頷き、指定の場所へ移動する。

今日はどちらも手持ちを外に出していない。相手にヒントを与えないようにしているのだろうか。

緋色と青刃がビデオを構えたのを確認し、僕は審判を始める。

「これより、6対6のダブルバトルを開始する。
両者とも交代は可能、トレーナーによる回復行為は禁止とさせていただく」

「……き、緊張する」

「お、同じく」

「奥様! ご健闘をお祈りしています!」

「おい青刃、声入っちまってる!」

「……どっちもアウトだ、小僧ども」

「ふわ〜ぁ……目が覚めるくらいいいバトル、よろしくねぇ〜……」

「実際に戦ってみたかったが……俺もこの勝負、楽しませてもらおう」

今回はビデオ係を除くメンバーもボールから出て観戦するようだ。

2人とも準備が整った合図でボールを構えた。よし、それじゃあ──

「勝負、開始!」

旗を持った僕の手が振り落とされたと同時に、2人ともボールを高く投げあげた。



「焔、誠士、レッツゴー!」

「碧雅、晶、お願い!」

レイナが繰り出したは彼女のパーティーの高火力エース、ガブリアスの誠士、そして高い素早さと手数の多さが魅力であるゴウカザルの焔。

対してユイが繰り出したのは誠士たちの天敵かつ彼女の相棒のグレイシア、そして一際強さに貪欲なチルタリス。

……相性のアドバンテージはどちらとも、と言えるだろう。

『フン、こけしに貪食猿か』

『まさか初手からお前とは思わなかったぞ。……今日は正々堂々、悔いのない勝負をしよう』

『……。ねえ誠士、遠くから見るとチルタリスの羽ってわたあめみたいで美味しそうだね』

『僕の羽は食べ物じゃないぞ貪食猿。
その食い意地も大概にしろ! 涎を垂らすな!』

『……緊張感無いなぁ』

(恐らくレイナは誠士を先に出すことで、最大火力とスピードがどこまで通用するかを見定めるつもりだ。
フェアリータイプが控えている以上、ドラゴンタイプを2匹同時に繰り出すは愚策。今回は相性補完が適う焔が適任と言えるだろう)

だがそれは向こうも同様。ユイのパーティーの中で一番気をつけるべきは相棒の碧雅。

あの特殊攻撃力から放たれるこおり技は、いくら誠士と勇人が強くともひとたまりもない。それ程4倍弱点とは恐ろしいのだ。

だからこそ、シンオウチャンピオン・シロナさんもエースのガブリアスにこおり対策のヤチェのみを持たせているくらいだ。

チルタリスの晶はひこうタイプを持っているから、誠士のじめん技は当たることは無い。

互いにドラゴン技で弱点を突けるが……接近する危険性のあるそれは諸刃の剣に近い。

(まずはやはり碧雅に焔を、晶に誠士をぶつけるのが妥当か)

それはレイナも考えていたようだ。一番素早い焔が駆け出し、次に誠士も腕の爪を光らせ接近する。

「焔、空中からだいもんじ! 誠士はドラゴンクローで牽制して!」

『おっけー! 先手は貰ったよ!』

『悪いが容赦はしない』

高く飛び上がった焔の放つだいもんじが、地上に佇む碧雅たちに文字通り“大の字”で迫り来る。横からは誠士がドラゴンクローで直接仕留めにかかってくる。

空中は炎、地上からは龍の刃。スピードで劣る2匹にユイはどのように対抗するのか。

「碧雅、晶に飛び乗って。晶は旋回しながらりゅうのまい!」

『はいはい』

『……仕方ない。振り落とされるなよ雪うさぎ!』

比較的小柄なチルタリスでも、グレイシア程度なら運ぶのは容易い。碧雅が飛び乗ったのを確認した晶が焔のだいもんじを交わし、舞を披露しながら空中へ翔ぶ。

……やはり、晶の起点となるのはりゅうのまい。彼は誠士ほど、いや他のドラゴンタイプに比べると攻撃力が劣ることを理解している。

だからこそそれを補うため、補助技を巧みに用いる。

レイナが誠士にかえんほうしゃを指示しジェット機のように飛び立ち羽ばたく晶を狙うが、素早さの上がった彼の方が有利。

軌道を読み上手くかわされてしまった。……だが、読んだのは向こうも同様。晶の飛ぶ方向を読んだ焔が炎を纏い、怒涛の勢いで接近する。

あの距離なら……届く!

「碧雅君を狙って、フレアドライブ!」

『りょーかいっ!』

「っ、みずのはどう!」

咄嗟に迫る焔に対抗するためみずのはどうを放つが、見事蒸発し晶の上に乗る碧雅にフレアドライブが直撃する。

吹っ飛ばされたところを誠士がドラゴンクローで再度狙いにかかるが、そこは晶がドラゴンクローで互いに相殺する。

刀の鍔迫り合いのような音が響き、どちらも一歩も譲らない。

『おいこけし』

『? なんだ』

『……お前は強い。それは仕方ないから僕も認めてやる』

『あ、あぁ。……礼を言ったらいいのか?』

『お前は狙ってボケてるのか? 天然か?
どちらにしろそのこけし顔はムカつく』

「ぶっふぉ!」

……緋色が2匹の会話にツボっているが、気に留めないでおこう。

2匹が鍔迫り合いをする中、レイナの指示にて焔が穴を掘り地中から奇襲を仕掛けようとしているのが確認できた。

(そういえば、フレアドライブを受けた碧雅はどこへ行った?)

「晶、しろいきり!」

『……いつかお前は僕が倒してやるからな、こけし』

そう言い残し晶の身体から白いモヤが吐き出され、霧の中に消えていく。

フィールドの視界が見えにくくなり、地下に潜っている焔も出るに出てこれないだろう。

『! 視界が……』

「誠士落ち着いて! ドラゴンクローで霧を晴らして……──」

──焦った一瞬をつき、氷の槍が誠士を貫いた。


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