01
「お兄ちゃーん! ユイお姉さんから電話〜!」
ナギサシティ某日。自宅で本を読んでいた僕に妹のメイが電話だと元気よく駆けてきた。
ありがとうと妹の頭を撫でて電話モニターがセットされているデスクに向かう。
“保留中”のボタンを解除すると、シンオウを旅している友人の顔が現れた。
《ナオト、久しぶり〜!メイちゃんも久々に顔見たけど、元気そうでよかった!》
「ああ、久しぶりだね。ところで急にどうしたんだい?」
《あ〜……えっとね、実は……──》
掻い摘んで話を要約するとこうだ。
実はマサゴタウンに立ち寄った際偶然ナナカマド博士に再会したところ、博士から手持ちポケモンのデータを取りたいと頼まれたのだそうだ。
了承したはいいものの、そこで駄々をこね……物申したのが晶。「どうせなら実践的にフルバトルをしたい」と言ったらしい。
彼のバトルに対するストイックさは相変わらずだなと笑みが零れる。
(それで僕たちに白羽の矢が立った訳か)
ユイもジムバッジを複数持つトレーナー。この前聞いた時は5つ目をゲットしたと言っていたか。
……これから先のジム挑戦にも、先達として役に立てることがあるかもしれない。予定を確認するが……うん、スケジュールは空いている。
「分かった。レイナには僕から伝えておくよ。楽しみにしているね」
《ありがとうナオト! あ、博士が言ってたけど、メイちゃんも良ければ是非って》
「それは助かるな、ありがとう」
メイは研究所のポケモンと触れ合うのが楽しいみたいで、前にお邪魔した時も楽しそうに遊んでいたのを覚えている。
いつか妹もパートナーとなるポケモンを見つけ、共に成長していくんだろうかと思いを馳せる。
ユイとの連絡を終え買い物に行っていたレイナに事の顛末を伝える。
驚いていた様子だったが、荷物持ち(という名のお零れのおやつ狙い)で付き添っていた勇人と焔は前々からユイのポケモンたちと戦いたかったようで今から楽しみだと笑っていた。
ああそうだ、伝え忘れていたけど。
「何でも今回はダブルバトル形式で行うらしいよ」
「ダブル? シングルじゃないの?」
「ああ。別の地方の学校ではダブルバトルが主流なところも珍しくないらしい。
2匹のポケモンを同時に出すことで戦術は更に多岐にわたる。僕たちもトレーナーとして、ダブルの形式に慣れておくこともいい経験じゃないかな?」
「うーん……一理、あるかな……」
ポケモンのタイプ、特性、技の効果。ダブルバトルになればそれまで培ってきた経験はまた違った顔を出す。
もし時間があれば、僕も行ってみたい。今回はレイナがユイと戦うことになっており、僕は次回行うのだ。
「んじゃ後で作戦でも決めておくか?」
「ダブルって聞くと、あたしコンテストパフォーマンス思い出すかも!」
「う、うん。……でも、せっかくなら頑張って勝ちたいね」
「ああ。ユイたちも相当手強くなっているはずだ」
「特にアンタらドラゴンタイプには不得手だろう。向こうはフェアリータイプとこおりタイプが半数を占めているんだ」
「でも逆に言えば……そこを封じちゃえばなんとかなる、かなぁ?」
來夢たちも早くから作戦会議が進んでいる。緋色たちもそれに混ざって、ああでもないこうでもないとアドバイスという名の茶々を入れている。
……敵ではない、好敵手と戦う前というのは、こんなにもワクワクさせるものなんだな。
それにしても、まだ本番まで日数はあるのに、随分とみんなやる気に満ち溢れている。
思えば知り合ったのは随分昔だったけど、本格的なバトルをするのは今回が初めてかもしれないな。タッグバトルは行ったことがあったけど。
少し緊張しているレイナを宥めるように、声をかける。
「楽しんでおいで、レイナ」
博士の研究の手伝いという建前だが、彼女たちにとっては初めてのフルバトル。友とのコミュニケーションを楽しんで欲しい。
目の前の婚約者は、ぎこちなくとも柔らかに笑ってうなづいた。
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