07


「マスター、随分ご機嫌ですね」
「心無しかほっぺがツヤツヤしてねぇ?なんか吸った?」
「ユイちゃん、にっこにこー」
「晶くんはなにか理由を知ってるかい?」
「実にくだらない理由だぞ。知る価値もない」
「どうせいつもの“可愛い女の子ポケモンたちとお泊まり”っていう出来事で胸いっぱいなだけでしょ」
「え、なんで分かったの?」


次の日、無事にサロン店に向かいそれぞれのボールをテレポートで再転送してもらった私たち。晶は気さくな勇人君や穏やかな焔君を交えた結果か、幸矢君とも徐々に打ち解けつつあって、4人で夜の外の街を散策しに行く程仲良くなれたらしい。そういえば、2人は過去の境遇が少し似てるもんね。良かった、またバトルに発展しなくって。
そして私はというと、來夢ちゃんと笑理ちゃんと一緒に温泉を堪能したり、夜空のお月見をお団子を買って楽しんだり、家族同然のレイナたちのためにお土産を選んだり……している2人を眺めてそれはそれは素敵なキャッキャウフフを楽しむことができた。
璃珀、地味にいつもの微笑みに憐れみの色が感じられるんだけど。


「みかん頭が“失礼なことを言った”と言っていたが……口を滑らせたのも分かる気がしたな」
「ご主人のそれはもはや筋金入りだね」
「私たちも先日はイレギュラーな出来事がきっかけとはいえ、灯台から月見をさせていただきました。美味しかったですよ、誠士たちの作ったお団子」
「焔君、今頃残ったお弁当と一緒に平らげてるのかな?」
「誠士たちのいつも作る量に合わせて作ったら、やっぱり大食漢2人いるからすっげぇ量できたわ。俺たちの食事3日分くらいは作った気がする」


腕つっかれたーと腕を回す紅眞に苦笑いとともに労いの言葉をかける。みんなと会話をしながら商店街を見て回ると、昨日がイベントだったからか今日は人通りも少なく、貼ってあったポスターも既に剥がれていて、この街の本来の静けさを取り戻している。
みんなで旅館でお月見プランは思いがけず來夢ちゃんたちと過ごすことになったけど、碧雅たちも彼らなりの、月見を楽しむことができたと信じたい。


「あ、そういえば俺たち一足先にレイナの秋スイーツ食ってきたぜ」
「え!?嘘!?」
「マスターの分も残しておきたかったのですが、生憎生物のプリンでしたので。楽しみにしていたのに、先にいただいてしまってすみません」
「プ、プリン……そんな……」


外だけど思わず項垂れてしまう。だけどそうだよね、プリンは冷やさないとだから、持って来れないもんね。眉を下げて謝る緋翠に大丈夫だよと宥めて、昨日晶と行った和カフェでスイーツリベンジを果たそうと誓った私だった。




「…………。」
「流石にそれは、人間の身には酷だと思うね。きみだって分かってたろうに、らしくないんじゃないかい」
「黙れ、フリーズドライ喰らいたいの」
「あはは。まあ、また今度レイナさんのところに行こうじゃないか」


愉快そうに笑い、先頭の集団に合流する璃珀。小さく息を吐き、ポケットの中に入っている最早意味の無いモノを音を立てずゆっくりと取り出す。
璃珀の言う通り、“分かってたのに”、“らしくない”。


「今度会ったら、やっぱりあいつは凍らせる」


誰に聞かせるまでもなく一人決意を固め、一口、シャーベットのようになったバケッチャの装飾が施された、器用な出来栄えのそれを口に運ぶ。南瓜のクリームのまろやかさ、自然の甘さが口に広がって、シャリシャリの食感の中に、ほんのりネットリ感が残る。固いものはきっと、目の飾りのチョコレート。
きっとこれを見たら、あいつは目を輝かせる。すごいすごいと絶賛しながら、美味しいと幸せそうに。

……ああほんと、らしくない。


「…………甘い」


人知れず小さく呟いたその言葉は、秋風にさらわれて、空へと融けていく。



[*prev] [next#]






TOP
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -