06

「着きました、シルべの灯台!」
「ソーラーパネルを兼ねた通路とは……この街は随分発展していますね。レイナ様、足元お気をつけて」
「奥様、荷物は私にお任せを」
「あ、ありがとう緋翠君に青刃」


薄暗いシルべの灯台の足元は確かにつまづきそう。緋翠君の手を取り青刃におやつを入れたクーラーボックスを預けた。その後ろをぞろぞろとナオトたちが着いていく形になる。


「……まるで姫とその付き人みたいな図」
「おいナオトいいのか?あの2人にレイナ取られてるぞ」
「いいんじゃないか。普段から一緒にいるんだ、どうせ暫くしたらナオトの元に戻るだろ」
「お前ら普段からそんなに一緒なんだなー」
「疾風、何を言ってっ……!」
「今更なに恥ずかしがってるのナオト、事実でしょ。……ふわぁ」
「ああ、毎度のことで酒の肴にもなりゃしねぇがな」
「ナオトちゃんとレイナちゃん、なかよし?」
「うーん、その言い方でも良いんだけど、この場合はラブラ──」
「天馬!それ以上言わないでくれ!」


よく聞こえないけど、ナオトがからかわれているということは分かった。だってナオト、あんなに恥ずかしそうに叫んでるんだもん。あと誠士、なんで君が顔を赤くしてる。
エレベーターに乗り、展望台フロアから更に上の屋上フロアに着いた。今回特別に行くことができたから、改めてお兄ちゃんに感謝しなきゃ。
料理男子3人組の作った女子顔負けのクオリティのお弁当が顔を出し、それぞれレジャーシートを広げて座る。自然の光だけで過ごす夜の月見は、人工の光に慣れると見えづらい。でも慣れてくると、周りがそれなりに見渡せるようになり、中々悪くない。涼しい風が頬を撫で、海の香りが鼻を突き抜ける。ぼちぼちと住宅街の明かりも消えてきて、それと比例して星空はより輝きを増していく。


(……あれ?)


各々仲良く過ごしていると思ったけど、碧雅君が一人離れたところで空を眺めていた。彼が誰かとどんちゃん騒ぎするキャラじゃないのは分かってるけど、せっかくの機会だから誰かと時間を共有すればいいのに、とお節介なことを考えてしまった。
お酒……は飲めないのでミックスオレを片手に、碧雅君の元へ近付く。フェンスに体を寄りかからせて空を見上げているその後ろ姿は、夜の影に覆われていることもあって寂しそうに見えた。茶化すように聞いてみれば、碧雅君は私相手にも「何言ってるんだお前」と冷めた目を向ける。


「何を言いに来たかと思えば、そんなことか」
「あれ、碧雅君は平気なの?」
「……たったの一日、下手したら半日くらいしか別れてない。それなのに“寂しい”だの“耐えられない”だの……そこまで子どもじゃないよ」
「そう?きっとユイは寂しいと思ってるよ。ずっと一緒だったパートナーと離れてるんだから。ちなみに私も來夢と離れて寂しい!早く会いたーい!」
「あっそ」


うーんクールドライ。流石こおりタイプ。すると、今までみんなと一歩下がってお酒を飲んでいた銀嶺が“碧雅の坊主”と呼び、私たちの元へ来る。その赤い目は大人の思慮深さを感じさせる、深い色。


「お前、なら何故こうやって空を見ていたんだ」
「…………。」
「お前は聡い奴だ。その理由も分かってるんじゃねぇのか」
「……おい」


銀嶺の普段近寄り難い雰囲気が鳴りを潜め、口元が珍しく弧を描き、大きな手が碧雅君の頭をぼふっと包み込むように触る。


「大人として一つ教えてやる。餓鬼はなぁ、素直な方が可愛げがあるってもんだ。意地張りたくなる気持ちも分からなくねぇし、うちのナオトを見習えとは言わねぇが、」
「いい加減にしないと、その口含めてお前を凍らせてやるけど。その顔を今すぐやめろ、ハガネール」


……な、なんだこれ。銀嶺がどんな顔をしてるのか私からは見えないけど、碧雅君の声色が低く、随分機嫌が悪そうだ。銀嶺はくつくつと声を抑えて笑い、悪かったな坊主と全く気にせず碧雅君の頭をボサボサにして再び酒を飲みに戻って行った。


「……はぁ。ねぇ、あれレイナを呼んでるんじゃない」
「え?」


未だブスっとしているが、髪を整えながら碧雅君が示す方を見ると、いい場所を見つけたらしいナオトが私を手招きで呼んでいる。そういえば今日はドタバタと色々あったから、2人の時間を取れていなかったな。
ナオトの元へ向かう前に、クーラーボックスからおやつのパンプキンプリンを取り出す。


「碧雅君、甘いもの好きだったよね?良かったらどうぞ。……今日はこんなことになっちゃったけど、少しでも楽しんでくれたら嬉しいな」
「…………。」
「あ、要らないなら要らないで構わないよ?明日どうせ焔と勇人が戻ってきたら食べるだろうし」
「……いや、貰えるなら貰っとく」


落ち着きを取り戻した眼差しが差し出したプリンをじっと見つめていたので、てっきり要らないのかと思ったけど、備え付けのスプーンと一緒に「どうも」とプリンを受け取ってくれた。
ナオトの元に向かう途中、後ろを振り返ると碧雅君は既に元の位置に戻っていて、どんな表情をしてるのか知る術はない。後日、銀嶺にもなんであんなことをしたのか聞いても、「小娘にもいずれ分かる時が来るだろ」とはぐらかされるのみだった。



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