05


「やっぱり、あのリラクゼーションサロンで取り違えちゃったんだろうね」
「だと思う。寧ろそれ以外に何があるの」
「だよねえ。大丈夫かなぁ、ユイ」
「レイナ!碧雅たちも!サロンと連絡が取れたよ」


ナギサシティに引っ越してしばらく経った頃、今日がお月見のシーズンということを知った私たち。ナギサには灯台があるし、今年は色々あったから遠出は控えとこうという話になったので、灯台でお月見をしようと思ってたんだけど……。リラクゼーションサロンの出張店が限定で開かれていて、みんな興味を示していたのでお試しで受けてもらった(誠士は市場で食材の買い溜めをしたかったようで断った)。
……までは良かったんだけどね。時間通りボールを受け取って、家に帰って寝ているみんなを部屋で寝かせようとボールから出したら、まさかの色違いミロカロスが出てきて色んな意味で腰が抜けそうになったのは記憶に新しい。
あ、ちなみにメイちゃんは今日はマサゴタウンのナナカマド研究所でお泊まり会に行っているので今日は不在だ。


「アンタらも災難だったな。どうやらあのサロンの見習いマネネがテレポート役のバリヤードの手伝いがしたくて、ボールを間違えてセッティングしちまったみたいだぜ」
「入れ違えた相手が知り合いだということも伝えてある。恐らくユイも事に気付いて、連絡をとって来るはずだ」
「今ユイがどこにいるか分からないから、こっちからコンタクト取れないしね。明日またお店に行かないと」
「レイナ、ユイからテレビ電話かかってきたよ」


噂をすれば、だ。天馬にお礼を伝えモニターの前へ。ユイは浴衣に着替えていて、背景もPCではない木造の建物だったので、今夜はどこかの旅館に泊まっているようだ。


「ユイ良かった、連絡くれて!來夢たちがそっち行ってるでしょ?碧雅君たちはウチにいるよ」
《やっぱりそうだったんだ……!來夢ちゃんが驚いて泣いちゃったけど、笑理ちゃんが宥めてくれたのと状況を説明して何とかなったよ》
《レイナー!》
《やっほーレイナ!》
《そっちは大丈夫そうだな》


心細いという気持ちが顔に出ている來夢を筆頭に、笑理と幸矢もモニターに姿を現す。良かった、3人とも無事みたいだ。


「焔と勇人は?」
《今ちょうど夕飯時でな。ここまで聞けば想像できるだろう》
「……今すぐ2人をここに呼んできて!」


案の定、食材を食べ尽くさんばかりに料理を頬張っている2人にまずは一喝。ていうか緊急事態なんだから、少しは危機感持ってよ!?


「ご飯なら明日帰ってきたら沢山食べて!いいね!」
《はーい》
《悪ぃなユイ、どれも美味くてつい加減が効かなくなっちまって》
《ううんー。私と晶だけじゃ食べ切れなかったと思うから、助かったよ》
《すれ違う従業員の顔は青ざめていたがな》


やっぱり止めておいて正解だったようだ。続いて家にいるユイの仲間たちが次々とこっちにやって来る。


「ユイに晶、そっちは旅館なのか。いいなー!」
「マスター、ご無事で何よりです!晶に振り回されてはいませんか?」
《おい》
「おや、2人ともいつもと違う格好だね。備え付けの浴衣を着てるのかな」
「ふたりとも、にあってる。ぼくもきれる?」
「よりにもよって今日に限ってそういう所泊まるの、タイミング悪すぎ」
《ならみんな戻ってきたら、明日また泊まろうよ。晶もいいよね?》
《……し、仕方ない。お前たちがどうしても泊まりたいと言うなら、付き合ってやってもいい》
(これまた分かりやすいツンデレ)
「……はぁ」


緋翠君がため息を吐くのが聞こえた。もしかして晶君の心を少し読んで、本心とは違うことを言ってしまったからかな。
空気を切り替えるため手をパンと叩き、それじゃあと話を仕切る。


「今日は來夢たちのこと、よろしくね。明日、お互い利用したお店に向かえば手持ちを交換してくれるはずだから」
《分かった。レイナも、碧雅たちのことよろしくね。みんな、迷惑かけちゃダメだからね!》
「私がテレポートで移動できれば良かったのですが。正確な位置が掴めず、申し訳ありません」
「緋翠の小僧。必要以上に自分を責めるのはいただけねぇぞ」
「私も銀嶺の意見に賛同だ。仮にお前が自分を責めたところで、お前の主人はそれをどう感じる?」
《2人の言う通りだよ。今回は緋翠が気にすることじゃないんだから》
「……ありがとうございます」
「一つ提案するが」


今まで静観していた誠士が手を挙げる。


「……碧雅たちの本来の予定とは違うだろうが、良ければ彼らもシルべの灯台で月見はどうだろうか?」


碧雅君たちが「月見?」と疑問の声を発したところで私もハッと気づく。そうだよ誠士、名案だ!


「せっかくだからどうかな?デンジお兄ちゃんに許可をもらって、今夜は貸切で灯台でご飯とお団子食べながらお月見の予定なんだ」
「めっちゃ楽しそうじゃんか!せっかくなら俺たちも行こうぜ!」
「ナギサの夜景もまた綺麗だろうからね、レイナさんたちが迷惑じゃなければ」
「ぼく、おだんごたべたいな」
「お?なら紅眞もいるし、旅館には劣るかもしれねぇが、俺たちで豪勢な夕飯でも作ってやろうじゃねぇか」
《えーずるーい!僕そっちに行きたい〜!》
《あーそっちもいいな。まだ食えるけどよ、俺はそろそろ風呂にも入りてぇな》


焔が心底羨ましそうに画面にへばりつき、《まだ余裕があるのか貪食猿》と晶君のドン引きしてる声が聞こえる。きっと幸矢もドン引いてるだろうなぁ。勇人にも言えることだけど、さっきまでたらふく食べてたのに、本当にその細い体のどこに入ってるんだろう。


《じゃあレイナ、あたしはレイナたちにお土産買って帰るね!》
「買いすぎないようにね。そっちも、ユイに迷惑かけないこと」
《はーい!》


それじゃあね、と寧ろこの状況を楽しんでる笑理に頭痛がしそうになったけど、笑理らしいと感じた。電源を切った黒いモニターに私の顔が映り込む。緋色の威勢のいい掛け声を合図に、各々月見の準備を始めていた。
ちょっと予想外のハプニングが起きたけど、それさえもワクワクに変えて、楽しんでしまえばいいんだ。


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