03


「……お、見て見て!良い感じの旅館じゃない?」
「何か化けて出そうな雰囲気じゃないか」
「古風と言いなさい古風と」


道中目に入った和カフェに立ち寄り、栗とマゴのみを使ったスイーツと抹茶を堪能して晶の機嫌もちょっと治った、多分。晶は好き嫌いは無いらしいけど、本人曰く「パワーが高まりそう」ってことで辛いものをよく食べるようにしてるんだとか。見た目通り和系のものは好ましいようで、抹茶の美味しさも堪能できたみたいで何より。抹茶は茶筅で点ててできた泡と一緒に飲むのが美味しいんだよね。
「口に泡がついて無様になってるぞ」と鼻で笑われたけど。


「泊まれるかな〜……。メイン通りのホテルはやっぱりほとんど部屋が埋まってたし」
「費用を節約するためにPCに人が集中してるかと思ったが、思った以上にここは人が来るようだな。……はぁ、何故人間どもはこういう行事ごとに集まる習性がある。全く不快だ」
「晶にとっては確かによろしくないかも。すみませーん、部屋空いてますか?」


受付で尋ねてみたところ、なんとか部屋を確保することができた。ちょうど急用でキャンセルしてしまったお客さんがいたらしく、襖に障子、木製の柱が見える和室ならではの趣が顕れている一室に通された。日焼けのしていない薄緑のたたみの香りが心地良い。窓側は床がフローリングで、景色を堪能できるよう座椅子のスペースが用意されていて、モダンな要素も兼ね備えているようだ。いつもベッドで寝ることが多いから、お布団で寝るのは久々だー!
晶は居室のテーブルに置かれていた案内所の温泉の項目を眺めていた。心無しか、目が輝いているような。


「ふむ、疲労回復に血行促進、万病に効くという噂が立つ温泉か。ホウエンのフエンと同じ有効成分があるようだな」
「ホウエンってことは晶の出身地方だね。行ったことあるの?」
「お前に関係ないだろう。よし、僕は一風呂行ってくる」
「もう!?」
「翼を綺麗にしに行くついでだ」


そそくさと部屋に備え付けの浴衣とタオルを用意して、さっさとお風呂に入りに行ってしまった。そういえば、進化前のチルットは綺麗好きなポケモンだと聞いたことあるから、チルタリスもそうなのかも。ただでさえあの羽は汚れやすいと思うし、綺麗にしておきたい気持ちは分かる。


(綿みたいな羽だから、濡れると萎むよね)


濡れたチルタリスを想像して、なんとも言えぬシュールさに思わず一人吹き出した。直後に寒気を感じた。「笑ったなちんちくりん」って晶に凄まれたような。
時計を確認するとそろそろサロンの終了時間だ。街中だから問題無いだろう判断して、お風呂上がりの晶にメモを残しみんなのお迎えに向かうのであった。



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