02


「うわぁ……すごい人混み……」


PCは外から見てもわかるくらい人がぎゅうぎゅうで、とてもじゃないけど中に入る勇気は無かった。ここまでの混みよう、何かあるのだろうか。


『今日は満月のようだね』


璃珀がボールから見てご覧とある箇所を指摘する、掲示板だ。満月をバックにピッピが踊りながらお月見をしているイメージ画のポスターが飾られていた。
どうやらこの街の和の雰囲気と相まってかお月見の恒例地として人気らしく、この時期になると毎年観光客やトレーナーが押し寄せるらしい。道中流し見で目に付いていたポスターだったけど、偶然にもイベント時に来ることになろうとは。道理で旅館やホテル、飲食店が多いわけだ。
宿泊費用がかさむこと、イベントで向こうも稼ぎ時であることを考えると、トレーナーなら無料で泊まれるPCに人が押し寄せるのは想像にかたくない。


(今日PCに泊まるのは無理そうだなぁ)


諦めてPCを後にしどうしたものかと思ったのも束の間、折角沢山泊まるところがあるのなら、たまにはホテルや旅館で羽を伸ばしても良いじゃないと思考が切り替わった。紅眞にもご飯を作ってもらってるし、休んでもらう良い機会かも。
一人うんうんと考えてはらはらと紅葉の舞い落ちる道路を歩く。赤い紅葉が風に流れて顔に付き、それを剥がした時にふと目に止まったのはポケモン用のリラクゼーションサロンだった。


(エスパーポケモンのテレポートを利用して本店に送って、サービスを受けられるんだ……)


前々から思っていた。普段の体力回復はPCで行えるとはいえ、たまにはプラスアルファの何かを提供できないかと。ドレディアやシュシュプといったポケモンたちの香りを堪能しながら、プリンやリーシャン、チルタリスといったポケモンたちの心和らぐ旋律を聴きながらマッサージを受けることができるという。
“夢心地の安らぎを あなたのポケモンたちへ”というフレーズに心惹かれ、どうだろうとみんなをボールから出して提案してみる。


『マッサージ……?』
『こんなのもやってんだなー』
『凄く、心惹かれます!でも違う場所に送られるとなると……』
「確かに、ご主人に何か起こっても駆けつけられないのが心配だね」
『なら僕が残ってやる。お前たちだけで受けてきたらどうだ』
『あっちゃん、いいの?』
『……見知らぬ人間の元に行くのが嫌なだけだ。それに、他のチルタリスがいるというのも何となく嫌だ』


そっか、晶の過去を考えればあまり行きたがらないかもしれない。善意のつもりだったけど、悪いことをしてしまった。けれど晶本人は『どうせ誰かが残らなければならないだろう』とさして気にしていないようだった。


『そんな顔をするなら後で何か奢れ、ちんちくりん』
「……ありがとう、晶」


ふん、とそっぽを向いたけど、それは恥ずかしさから来るものだと信じたい。

受付で晶を除く全員を預け、引き取り時間が書かれたチケットを受け取る。じゃーねーとボールの中にいるみんなに手を振り、お店を後にした。


「晶と2人なんて初めてじゃない?」
『だからどうした』
「いつもと違うから新鮮だなーって!何しよう?」
『まず宿を探すのが先だろう。PC以外にも選択肢はあるのに野宿したいのか』
「それもそうだね」


全く、とため息を吐き人型に変化する。おお、晶も和服着てるからこの街の雰囲気にすっごくマッチしてる。写真撮りたい。
こういう所なら着物のレンタルとかやってるよね。前の世界ではあったもの。


「私もお揃いにしようかな」
「お前が……?」


何の気なしに呟いた独り言を拾い、隣を歩いていた晶が足を止めた。眉間に皺を寄せ、私を上から下まで見定めるように見ると、勝ち誇ったように笑った。


「あ、“ドロバンコにも衣装だな”って鼻で笑ったでしょ」
「な、!」
「いいもーん。碧雅と晶のダブルパンチで言われ慣れてるし」


……自分で言ってて悲しくなってきた。
晶は何故か肩を震わせ、歩幅を大きく広げて地面を蹴り上げるようにズンズンと歩き出した。


「……っ、もう行くぞちんちくりん!」
「なんでツンツンしてるの?」
「知るか!」


その後も何故かしばらく機嫌を治してくれなかったし、何故か「バカ主」と言われる始末。何この理不尽?



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