01

「あつーい……シンオウ地方って北国のはずなのに何この暑さは」

「俺はそんな暑くないけどなー」

「やっぱりほのおタイプだからかな?反対に碧雅は死んでも外に出ないって言ってるし」


そんな正反対コンビは置いといて、私たちは旅の休憩のためタウンマップに載ってたとある街に向かっているんだけど、今日の気温が物凄く高い。

晴れるとは聞いていたけどここまでとは予想していなかった。

まさに雲ひとつない晴天の青空だ。いや、今日は夏空って言った方がいいのかな。


「あ、なんか建物が見える」

「着いたな!」


日陰の存在を求めつつ歩いていると、レンガの温かみのある茶色が見えてきた。

獣道から舗装された道へと変わり、レトロな雰囲気の街並みが姿を現した。

おお、この雰囲気すごく好きだぞ。レンガの壁に絡みつく蔦の生命力に圧倒される。

シンオウ地方ってやっぱり自然が豊かなんだなあ。

さて、いつものように散策したいところだけど、まずは水分補給がしたい。

けれどそう都合よく飲み物を売ってるお店には出会えず、このままだと散策前に干からびてしまう。結構汗もかいたしね。

今も歩いてるから散策なんじゃというツッコミはあるだろうけど、これはノーカウントだ。


『……ユイ、あれ』


すると、今までボールで大人しくしていた碧雅が声をかけてきた。

言われた方向に目をやると、そこは噴水広場のようだった。

この街のシンボルらしい花のアーチに囲まれた大きな噴水の周りには、ベンチや自販機が置いてあった。

……自販機?


「飲み物あったあぁ!」


しかし考えていることは皆同じのようで、ほとんどの飲み物は既に売り切れていた。

残っているのはミックスオレ。とりあえず飲めればなんでもいいと小銭を入れて買っていると、3本目が出た時に1本おまけでついてきた。

やった、当たりだ!


「いい事ありそうな予感〜!」

『単純な頭で羨ましいね』

「外に出してあげようか」

『その瞬間君の身体は全身冷たくなってるけど、いいの?』

「すいません」


くそぅ相変わらず勝てない。

ちょうど日陰が当たっているベンチも見つけたので、そこで休憩だ。

碧雅はどこか建物にでも入った時に飲むらしい。

紅眞と一緒に冷えたミックスオレを開け、いただきまー


「えっ! 売り切れちゃったの?」


……す?

ミックスオレを口に運ぶ前に聞こえてきたのは幼い女の子の声。


「うん。今日は暑いから、みんな喉が渇いてるんだね」

「ううっ、ミックスオレ……」

「仕方ないよ笑理、こんな日もあるって」


私たちのいた自販機の前に立ち、悲しそうな顔をする水色のカチューシャが特徴的な女の子と、その子を宥める黄緑に近い色の髪をした女の子。

どうやらミックスオレを買いに来たらしいけど、私が買ったもので最後だったみたい。

そうか、それならと女の子たちの元へ向かう。少し待ってて、と紅眞に伝えた。


「ねえ、あなたたち」

「! 誰……?」


不意に話しかけてしまったからか、カチューシャの子に少し警戒されてしまった。

わわ、決して怪しいものではないよ! 両手に2本のミックスオレを持ち、2人に差し出す。


「突然ごめんね。これ、良かったらどうぞと思って」

「あ、ミックスオレだ!」

「でも、これお姉さんの分じゃ……」

「元々1本おまけでゲットしたものだし、この後PCに行こうと思ってたから、私は大丈夫だよ」


幸いなことに先程PCの看板を見つけた。

場所も遠くないから、私はそこで飲み物を買えばいいし、最悪紅眞のを分けてもらえればいい。

少し戸惑いを見せていた2人だけど、このままも申し訳ないと思ったのか、ミックスオレを受け取ってくれた。

あ、片方蓋開けちゃったから気をつけてね!


「お姉さん、ありがとう!」

(か、かわ……!)


太陽に照らされキラキラ輝く白い髪に負けないくらいの笑顔。

えみり、と呼ばれてた女の子は嬉しそうにミックスオレを飲んでいた。


「私の分もありがとう、お姉さん」

「どういたしまして。私はユイ、よろしくね!」

「私は來夢。この子は笑理っていうんだ」


來夢ちゃんに笑理ちゃん。

2人の可愛い女の子と知り合いになれて、早速良い事が起きたよ。

立ち話もなんだから、とみんなでPCに寄ることになった。

途中でやっぱり喉が渇いた私は一口紅眞から貰う。うん、甘くて美味しい。

元から明るい性格の紅眞は2人にも臆することなく話しかけ、歳も近いからか仲良くなっていた。流石のコミュ力。

PCの中はエアコンが効いており、涼しい空気が私たちの身体を通っていく。生き返る〜!

碧雅もようやくボールから出てきて、助かったと言わんばかりに息を吐いた。


「……やっぱ暑い」

「これ以上涼しくなるのは難しいから我慢してね!? はい、ミックスオレ」

「あ! お兄さんもポケモンなの?」

「うん、グレイシアっていう名前のポケモンだけど……“お兄さんも”ってことは、あなた達も?」

「そうだよ! あたしはパチリス、來夢はランクルスっていうポケモンなの」


なんということでしょう。知り合った女の子はポケモンでした。

パチリスは聞いたことあるけど、ランクルスっていう名前は聞いたことないなあ。

ポケモンって何種類いるんだっけ。

……待てよ、2人はポケモンということは、もしかしてトレーナーさんがいるんじゃ。

その予感は見事的中し、笑理ちゃんはある人の存在に気づくと後ろから思い切り抱き着いた。


「レイナー! ただいまー!」

「わっ! ……びっくりしたよ笑理、待ち合わせの時間にはまだ早いけどどうしたの?」

「私もいるよ、レイナ」

「來夢も、2人ともおかえり!」

「みんなは何してるの?」

「誠士は部屋でご飯作ってて、焔は勇人に連れられてPCの中にあるバトルフィールドに行ったよ」

「今日は暑いから自由時間でもみんな建物の中にいるんだね」


会話から察するに、あの子が2人のトレーナーなのかな。


「2人とも、あの子は誰なの?」

「ユイっていうんだって!」

「実は……」


レイナちゃんという女の子が私に気づき、2人に尋ねていた。経緯を來夢ちゃんから聞いたらしいレイナちゃんが私に駆け寄ってくる。


「2人がお世話になったみたいでありがとう、私はレイナっていうんだ」

「い、いえいえそんな滅相も無い! 私はユイです、えっと、レイナちゃん?」

「……ふふっ、敬語なんて良いんだよ! 歳近そうだし」


そう言い笑いかけてくれるレイナちゃん。

見た目は私と同じくらいの歳なのに、私より落ち着いた穏やかさを感じさせる。

來夢ちゃん達と会話を弾ませるレイナちゃんを見ていて、ふとどこかで彼女を見たような感覚に襲われた。

どこだっけ、確か見たことも無いポケモンも見たような……あ!


「ねえ! レイナちゃんってポケモンコンテスト?っていう大会に出てなかった?」

「え?」


テレビで“ヨスガシティ・ポケモンコンテスト特集!”と大きくシンオウ・ナウで放送されていた時にレイナちゃんが映っていたのを思い出した。

今の服装と違いドレスアップをしていて、元の素材の良さを引き立てていてとても綺麗だったのを覚えている。

あの時出していたポケモンは白いリスのような外見のパチリスと、緑のゼリーのような物体に覆われたポケモンだった。

そのポケモンの名前がランクルスと解説されてたと思う。

私よ、ちゃんと名前聞いてたじゃないか。

ポケモンバトルとはまるで違う、魅力を引き出すという戦い方がとても新鮮でパフォーマンスを見るのが楽しかった。

レイナちゃんのクラウンの演出も見事で、優勝したのも納得だった。

あの時のポケモンが來夢ちゃん達だったんだね。

けれどレイナちゃんにとっては嬉しくも恥ずかしい思い出らしい、知られてたのか! と恥ずかしそうにしていた。


「っそ、そういえばそろそろお昼ご飯できたかな!」

(あ、話逸らしたな)


その反応がちょっと可愛くて思わずクスリと小さく笑ってしまった。

どうやらレイナちゃん達ご一行はこれからお昼ご飯らしく、私達もまだだったのとお礼も兼ねてご一緒させていただくことになった。


[*prev] [next#]






TOP
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -