08

「……よし。みんな、もう目を開けて良いよ」

私の声を合図にみんなが一斉に目を開ける。

そして視界に飛び込んできたものを見て、キョトンとした顔をしていた。

「これは……チョコレートケーキですか?」

「しかもただのケーキじゃないね。チョコレートを使ったアイスケーキかな?」

「あまーいにおい。モーモーミルクあるかなー?」

うんうん、あの顔が見られたなら概ね成功だね!

みんなに見えないように、机の下でフユカとハイタッチした。

「とても美味しそうですね。……おや?
なっ、マスターとフユカ様の分が無いではないですか!」

「何!? これは何という……姫、私の分をお食べ下さい!」

「緋翠、白刃君、私たちの分は気にしなくて良いんだよ」

「そうそう。せっかく作ったんだし、食べてくれると嬉しいな」

「せっかく、って……これユイとフユカが作ったのか!?」

紅眞の言葉を皮切りに、全員の目が再びケーキに釘付けになる。

というかみんな、花にも注目しようよ……。

「……何で急にケーキ作ろうとか思ったわけ? アイスケーキにした点は褒めてあげるけど」

「今日はバレンタインデーだからね。みんなにサプライズしたくて、内緒で用意したんだ」

「バレンタインデー……?」

「フユカ、そのバレンタインデーってどんな日なの?」

「私たちのいたところでは、一般的には女性が好きな男性にチョコレートを贈る日なんだ」

「でも最近では女性同士でも友達として贈り合ったり、日頃お世話になってる人に感謝を伝える日になりつつあるよ」

「ふむ……その辺りの文化はシンオウやホウエンとあまり変わらないね」

あっ、そうか。璃珀って色んな地方を回ってたんだよね。

そういう人間の文化の違いに触れる機会は多かったのかも。

「へぇ、東の地方じゃチョコレートが贈り物のメインなんだな」

「カロスでは違うのですか?」

「あぁ。カロスでバレンタインデーっていえば"恋人たちの日"だ。
一般的に男性が女性にバラの花束と一緒に、アクセサリーや香水を贈る。
チョコレートは、贈り物の1つとして選択肢にあるって感覚だな」

「えっ、そうなの!?」

「知らなかった!」

カロスのバレンタインデーって、"カップルが成立する日"じゃないんだ!?

……って、こんなことしてる場合じゃない。

アイスケーキだから、早く食べてもらわないと溶けちゃう!

すると緑炎さんがおもむろにケーキを1口食べる。

モグモグと無言で咀嚼している様子を、何故かみんなが静かに見守った。



「……美味い」



微かに……でも確かにフワリと緑炎さんが微笑む。

その顔を見た私たちは、思わず呆然としてしまった。それはフユカも例外ではなく。

「……そんな顔もできたんだな、森トカゲ」

「? どんな顔だ?」

「ま、まさか無自覚とは……」

「何でも良いけど、早く食べないと溶けるよ」

いつの間にか食べていた碧雅に促され、みんなもアイスケーキを口にする。

全員が美味しいって言ってくれて、心の中でガッツポーズした。



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