06

「はい、ではこのまましばらく置いたら完成ですよぉ」

「「終わった〜!」」

「フユカ様もユイ様もお疲れ様でした。
これであとは、明日を待つだけですね」

「はい!」

「ありがとうございます!」

慣れないながらも悪戦苦闘すること数時間。

私たちの思い描いていたバレンタインの贈り物が形になり、ひとまずはお披露目の時まで待機してもらう。

ジャンさんもソフィアさんも優しく丁寧に教えてくれて、何とか完成させることができた。

レイナっていつもこういう手間を掛けてケーキ作ってきてくれてたんだなぁ。

今度改めてお礼言わなきゃ。

「さて、今度はお片付けしなきゃ」

「うん、結構散らかしちゃったもんね」

「片付けは私とソフィアで済ませますので、どうぞご心配なく」

「お2人とも久しぶりにお会いしたとお聞きしてますし、せっかくですからお庭でお茶でもいかがですかぁ?」

"紅茶とクッキーをお持ちしますねぇ"とソフィアさんがぽやーんと笑う。すごく癒される……!

お言葉に甘えて、私たちはお屋敷の裏庭に移動した。



「わぁ〜、すごぉい!」

「いつ来ても綺麗だね、このお庭!」

裏庭に足を踏み入れた私は、思わず感嘆の息を零す。

たった今水やりが終わったところなのか、花びらや葉っぱに付いている水滴がキラキラと太陽の光を反射していて。

映画の世界にでも紛れ込んだんじゃないかって錯覚してしまうほど、とても綺麗な場所だった。

少し遠くの方に緋翠と雅ちゃんと白恵、蒼真君と悠冬君がいるのが見える。

……あのオレンジの髪の執事さんはどなた?

「マスター、それにフユカ様も」

「おかえり……。ミッション? は終わったの……?」

「バッチリだよ! ね、フユカ?」

「うん! みんな、明日楽しみにしててよ」

「ユイちゃんニッコニコ。あまーいよかん?」

「白恵、それ以上は野暮ですからおやめなさい」

白恵の発言に一瞬ギクリとしたけど、緋翠がすかさずフォローしてくれた。

ナイスだよ、緋翠。……でも彼には何となくバレてるんだろうな、キルリアだし。

「みんなもここのお花見に来てたんだね。私たちも混ざって良い?」

「えぇ、もちろん。今、ルイから花の種類を教わっていましたのよ」

ルイ? と小首を傾げる私に、オレンジの髪の執事さんが恭しく一礼する。

"このお屋敷の執事兼庭師さんなんだよ"、ってフユカが簡単に紹介してくれた。

「先ほど皆さまをご案内していたのですが、雅様と緋翠様は本当に花がお好きなのですね。
お褒めの言葉をいただき、庭を管理する者としてこれ以上の名誉はありません」

「め、名誉などとそのようなつもりでは……! 私はただ、思ったことを口にしただけで……!」

お、おぉ……。緋翠が褒められて慌ててるとこ初めて見た気がするぞ。

珍しいものが見れたなーと思っていると、フユカが隣で"そうだ!"と言った。

「ルイさん、グラシデアの花ってまだ咲いてますか?」

「えぇ、咲いていますよ。よろしければお持ちしましょうか?」

「いえ、今じゃなくて明日お願いします」

ルイさんはフユカの言った"明日"のワードに鋭く反応する。

"なるほど、かしこまりました"と言って、いそいそとお屋敷の中へ戻っていってしまった。

このお庭、グラシデアの花も咲いてるんだぁ。

「フユカ様〜、ユイ様〜! お茶とお菓子お持ちしましたよぉ」

「ありがとうございます! みんなもお茶にしようよ」

美味しいお茶とお菓子に、綺麗なお庭。

隣には頼もしい仲間と、優しい友達。

楽しい時間って、何でこんなに早く過ぎちゃうんだろう?

(でも……明日が待ち遠しいな)

バレンタインはすぐそこまで近付いてきている。

逸る心を押さえながら、今はティータイムを楽しんだ。



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