04
空港の建物から出る私たちの目に飛び込んできたのは、何と黒のリムジン車だった。
『何で空港前にリムジン車が止まってるわけ』
『スゲー! カッケェな、あの車!』
「何かもう驚きすぎて言葉が出てこないんだけど……。どういうこと、フユカ?」
「いや、この展開は私も想定外だよ……」
2人でポカーンとしながら立ち尽くしていると、リムジン車のドアが開く。
すると中から執事服を来たダンディーな男性が降りてきた。
「フユカ様、ご機嫌麗しゅう」
「えっ、ジョゼフさん!? お、おはようございます……。
あの、アレックスさんが迎えに来てくれる予定だったと思うんですけど……?」
「アレックス様は、急なスケジュールが入ったようでして。
ですので我々が代わりにお迎えに上がった次第にございます」
会話の内容自体はともかく、フユカと執事さんという組み合わせに私はつい呆気に取られてしまう。
何か普通に話してるっぽいけど、この人フユカの知り合い?
促されるままにリムジン車に乗り込むと、運転席に座る銀髪碧眼の人と目が合った。
「あっ、シャルルさん! セキタイタウンまでお願いできますか?」
「はい、心得ております。ジャンとソフィアが準備を整えていますよ」
「(……ねぇフユカ、私たちこれからお菓子作りに行くんだよね?)」
聞き慣れない名前の数々に疑問符を飛ばしながら、碧雅たちに聞こえないようフユカに耳打ちする。
フユカもヒソヒソと"そうだよ"と返してくれた。
本当はアレックスさんがセキタイタウンっていう町まで送ってくれる予定だったらしい。
でもさっきジョゼフさん? が言ってた通り、急な用事が入っちゃったんだって。
ポケモン博士の助手さんだし、色々忙しいんだろうな。
窓から見える景色を見ながらフユカと談笑していると、ジョゼフさんが"フユカ様、ユイ様、到着いたしました"と声を掛けてくれる。
車から降りた私の目に飛び込んできたのは、まるで中世の豪邸のような建物だった。
思わず驚きで固まってしまい、そんな私を見たフユカはクスクスと笑った。
『おい。間抜け面を晒すな、ちんちくりん』
「……ハッ! ま、間抜け面なんてしてないよ!
っていうか、行き先がこんな大豪邸だと思わないじゃん!」
『この町にこんな立派な邸宅があるとは知らなかったな』
『お庭も素敵ですね。花たちもよく手入れされているのが分かります』
『スゲー! 広いな、ここ!』
『紅眞、さっきから"スゲー!"しか言ってないじゃん』
「私も初めて来た時はビックリしたんだよ。ここ、緑炎の実家なんだって」
「じ、実家!?」
ってことは、緑炎さんはここで生まれ育ったってこと!?
ますます彼の経歴が謎に包まれてきたような気がする。
『へぇ……緑炎って良いとこの生まれだったんだ?』
「私も詳しいことは言えないけど……緑炎にとっては色んな想い出が詰まった場所だからね」
"たまには実家でゆっくりさせてあげようと思ってさ"
そう言って笑うフユカの顔は、相棒を想う慈愛に満ちている気がした。
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