03

シンオウから飛行機に乗り、カロスへ足を踏み入れる。

時間は朝。ふわぁ、と出そうになるあくびを何とか噛み殺した。

『ユイ、フラフラ歩いてるとぶつかるよ』

「はぁい……。まだ少し眠いな……」

『俺が外に出れたら良かったけど、今は少し難しいからね。ゴメンね、ご主人』

『お前はちんちくりんと手を繋ぎたいだけだろう』

『くぁ〜……あふ……。俺もまだ眠いわ』

『スー……スー……』

『……白恵はまだ眠っていますね。
マスター、大丈夫ですか? ミアレ空港は人も多いですし……』

「うん、大丈夫。だいぶ目が覚めてきた」

まだほんの少しだけぼんやりとする頭をフル稼働し、待ち合わせ場所にいるであろうフユカを探す。

何とか人の流れから抜けると、誰かの背中にぶつかってしまった。

モンスターボールの中で、碧雅が"言わんこっちゃない"と言いたげにため息をついたのが聞こえる。

「わっ、ごめんなさい!」

「大丈夫だよ。君の方こそケガは……あれっ、ユイ?」

自分の名前を呼ばれたことに驚きつつも、その誰かを見上げる。

目の前には鮮やかな水色の髪と、青い瞳を持った男性の顔があった。

ど、どちら様でしょうか……?

「あのー……どこかでお会いしましたか?」

「えっ、もう何度も会ってるのに忘れちゃったの?」

「な、何度も……?」

ようやく働き始めた頭で必死に記憶を探る。

でも申し訳ないことに、目の前の彼に会った覚えが少しも無かった。



「悠冬、お待たせー」

「おかえり、フユカ。
ねぇユイったら酷いんだよ。僕のこともう忘れたみたい」



混乱する私の耳に届いてきた、聞き馴染みのある女の子の声。

ちょっと待って。

今ものすごーーく聞き覚えのある名前が聞こえた気がする。

「あっユイ、いらっしゃい! 長旅お疲れ様」

目の前の彼に困惑している私たちと合流したのは、紛れもなく友達のフユカだった。

少し癖の残る黒髪のポニーテールが揺れる。

「久しぶり、フユカ! って言いたいところだけど、このイケメンさん誰!?」

「あぁ、前に会った時はまだアマルスだったよね?
進化してアマルルガになった悠冬だよ」

「そっかぁ、悠冬君かぁ! ……えっ、悠冬君!?」

『マジ!?』

あ、紅眞が完全に起きてきた。……じゃなくて!

私たちの記憶にある悠冬君と全然違うよ!?

「うん、そうだよ。進化して背も大きくなったんだ」

「……あんなに可愛かった悠冬君が……白恵とはまた違った癒し枠が……」

「アハハ、進化しても悠冬は悠冬だよ。好奇心旺盛なところは変わってないし」

「ユイは……大きい僕は嫌い?」

親とはぐれたコリンクみたいな目で私を見る悠冬君に、反射的に"そんなことないよ、カッコイイね!"と返す。

すると彼は"良かったぁ"ってふにゃりと笑った。

前言撤回。進化してもやっぱり天使だわこの子!

「碧雅君たちも元気?」

「うん、元気だよ! 後で外に出してあげなきゃね。
それでこれからどうするの?」

チョコレートを作るための場所はフユカが確保してくれているはずだし、このまま買い物に直行かな?

「まずはセキタイタウンまで行くよ。
ミアレシティからだと遠いから、車出してくれるって」

「車?」

早く行こうって笑いながら、フユカが私の腕を引く。

私はそのまま彼女と一緒に空港のエントランスに向かった。


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