05
見れば紫の髪の男性に、男の子がぶつかってしまったらしい。
(あの人……私の前に並んでた人だ)
彼が買ったヒウンアイスは、ぶつかった衝撃で地面に落ちてしまっていた。
男性は何も言わずに落ちたアイスをゴミ袋に片付けている。
「お兄さん、ごめんなさい! せっかくのアイスが……」
「別に良い。ちゃんと前は見て歩け」
そう言いながら手際良く片付けていくその表情は、少し残念そうなものに見えて。
気付けば私は、思わずその人に声を掛けていた。
「あの……良かったらどうぞ」
眼前に差し出されたヒウンアイスと私の顔を見て、男性の金色の瞳が訝しげに細められる。
「何のつもりだ?」
「え?」
「俺に構うな。お前の世話にはならん」
それだけ言って、 男性はスタスタと歩いていってしまった。
「何だよアイツ! ユイはアイスあげようとしただけじゃんか!」
「まぁまぁ紅眞君、彼にだって事情があるのかもしれないよ」
プンフコと怒っている紅眞を璃珀が宥める。
その隣で、晶は男性の背中をジッと見つめていた。
「アイツがどうかしたの、晶?」
「……別に」
「今の方……理由は分かりませんが、心に傷を負っているのかもしれませんね」
「心の傷?」
「はい。マスターを見る目に、強い不信感を感じましたので」
それから猜疑心も、と緋翠は呟く。
何か……辛いことがあったのかな……。
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