09
ナナカマド博士たちが部屋に戻ってくる。
ホカホカと湯気の立つお蕎麦は、つゆの良い香りがして今にもお腹が鳴りそうだ。
悠冬の方を見ると、彼の分は冷たいお蕎麦らしかった。気遣いがありがたいよ。
「油揚げとかき揚げもあるから、好きな方を選びたまえ」
「私は油揚げで!」
「私も!」
「じゃあ僕はカキアゲをいただきます」
緑炎がかき揚げを、紅眞君が油揚げを配って回る。
「ほい、これがユイとフユカの分な」
「ありがとう、紅眞君」
「かき揚げも美味しいけど、油揚げも良いよね」
紅眞君に油揚げを乗せてもらって完成した、きつねそば。
他のみんなもお腹がすいてるのか、今か今かと待っている。
「全員に行き渡ったかね? では、いただこう」
全員がいただきますと手を合わせて、お蕎麦を食べ始める。
外気で冷えた体に、つゆの温かさが染み渡った。
ちなみにうちのメンバーとプラターヌ博士は箸が使えないので、フォークで食べている。
カロスで箸使う料理、あんまり見ないもんね。
「美味しい〜! ね、蒼真!」
「うん……。ツユ? も、良い香り……」
悠冬も蒼真も、初めて食べるお蕎麦に興味津々みたい。
蒼真はやっぱり時間を掛けてフーフーしてた。
「しかし、何故シンオウでは年の暮れにソバを食べる文化が?」
「シンオウだけではない。カントーやジョウト、ホウエンにも同じような食文化がある。
蕎麦は麺が長いので長寿や延命、家族との縁が長く続くように願って食べるのだよ」
諸説あるがね、と続けてナナカマド博士が蕎麦を啜る。
「家族との縁、か……。
家族だけじゃなくて、ユイとの縁もずっと続くと良いね」
「もちろんだよ! 来年も仲良くしてね」
「なぁなぁ、来年はレイナとナオトも誘ってみんなでパーッとやろうぜ!」
「あぁ、悪くねぇ。年越し蕎麦の作り方は覚えたしな」
「まぁ、それはとても素敵ですわね」
「マスターとご友人みんなで年越し……。賑やかで楽しそうです」
「じゃあアレックスさんも誘おうかな。来年の年末は空けといて貰わなきゃ!」
楽しい大晦日はあっという間に過ぎていき、私たちは宿に向かう。
「楽しかったかい、フユカさん?」
「はい、とっても!」
満天の星空の下を並んで歩く私と博士を、穏やかな月の光が照らす。
どうか、全ての良縁が末永く続きますように──。
満月にそんな願掛けをしながら、宿への道を歩いた。
翌日──。
ユイからの連絡で再び研究所に集まって、みんなでお雑煮をご馳走になったのは別の話。
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