07
デザートタイムを終えて鍋や食器類を片付けて、あとはテントで眠るだけ。
でもこの星空を見ずに寝てしまうのももったいないような気がして、レジャーシートの上に仰向けに寝転んだ。
"太るよ"なんて碧雅の呆れたような声が聞こえた気がするけど、たまには良いじゃない?
「ここは星が綺麗に見えるね。空気が綺麗なのかな?」
「まぁ街灯も遮蔽物も無ぇし、天体観測するには絶好の場所だろうな。……晴れてさえいれば」
ユウヤ君が私の隣に来て、自分の腕を枕にして仰向けになる。
椅子に座る時みたいに組まれたその脚は、スラッとしていて羨ましい。メンズモデルとかやれるんじゃない?
「キラキラしててキレーだね」
「そうですね。たまにはこうして静かに星を眺めるのも良いものです。
そうは思いませんか、晶?」
「悪くはないが何故そこで僕に振るんだ。
さては昼間にちんちくりんを引っ張り回したのを根に持ってるな、ひっつき虫?」
「…………さて、何のことでしょうか?」
『なかなか個性的よね、晶ちゃんのネーミングセンスって……』
みんなも何だかんだ星空を楽しむことにしたのか、寝転んで見たり座ったまま見たりしている。
ワイルドエリアの大自然に囲まれて見る星空。大きなプラネタリウムを見てるみたいで、少し贅沢な気分になる。
「……なぁ、ユイ。1つ聞いても良いか?」
「何?」
「お前はさ、トレーナーになってやりたいことってあったりすんの?」
ユウヤ君から突然投げ掛けられた、そんな質問。
私は今までの旅のことを思い返しながら考えてみたけど、これといって明確な答えは見つからなかった。
「ユイに聞いてもたいした答え出ないと思うんだけど……。なんでそんなこと聞くわけ?」
「ひ、酷……」
「そもそも俺、自分から立候補したんじゃなくてな。
たまたまこの世界に来て、たまたまチャンピオンやこっちのダチと知り合って、ポケモン貰って……。
ジムチャレンジに参加するのも、そのダチに誘われるがまま成り行きでってヤツ。
チャンピオンになりたいかって言われるとそうでもねぇし、どんなトレーナーになりたいのか分かんねぇまま旅に出てんだよな」
彼のその言葉に、私自身も思うところはあった。
最初は元の世界に帰る手段を探すために始まった私の……私たちの旅。あの時の私も"チャンピオンになりたい"とか、"トップコーディネーターになりたい"とか、理想のトレーナー像なんて持ってなかった。……今もあんまり無いんだけど。
でも色んな人やポケモンたちと出会う中で、私にはこの世界でやるべきことがあると聞かされた。
だから私自身、"こんなトレーナーになりたい"っていうんじゃなくて……もっと別の理由で旅を続けてるんだと思う。
「……今はそれでも良いんじゃないかな。私もそうだから」
「お前も?」
「うん。私もね、具体的にどんなトレーナーになりたいか分かんなくてさ。
チャンピオンもトップコーディネーターも、今の私には途方も無さ過ぎることだし。シンオウのジムに挑戦するのも、確かに成り行きだったよ。
でもね……私は碧雅たちと一緒だから、この旅が楽しいって思えるんだ。みんなと一緒に、色んなものを見たい。
私はきっと、"この世界のことを知りたくて"旅をしてるんだと思う」
「世界を知る、か……」
「私も上手く言えないけど、きっとユウヤ君にも自分だけの旅の目的はあるんだよ。今はそれが分からないだけ。
最初から夢を持たないといけないなんて決まりは無いんだし、旅をしながら探してみるのも良いんじゃない?」
「お、おぉ……。珍しくユイが良いこと言ってる……!」
「ちょっと紅眞、"珍しく"は余計だよ」
普段の私がろくな人間じゃないみたいじゃんか!
紅眞の肩を軽くパンチすると、隣からフハッという笑い声が聞こえた。
見るとユウヤ君が肩を揺らしながらクツクツと笑っている。
「ハァ……。そっか……そうだよな……。
ありがとな、ユイ。何か色々吹っ切れたわ」
「えっ? う、うん……どういたしまして?」
彼の表情が、どこかスッキリしているように見える。
悩みを解消する手助けができたのなら、さっきの私のセリフも無駄じゃなかったと思えた。
「ユウヤくん、君たちの旅は始まったばかりなんだ。焦らず、ゆっくり探していくと良い。
ご主人も君も、時間はまだたくさんあるんだから」
「……おぅ、そうだな」
そう言ってユウヤ君が軽く目を閉じた時、どこからか"ロトロトロト!"というけたたましい音が鳴り響く。
ユウヤ君が"あっ、ヤベッ"と言うと同時に、彼のズボンのポケットから何かが勢い良く飛び出してきた。
『コラー! いつまで起きてるロ!
就眠予定時間はとっくに過ぎてるロト!』
「いてっ!? 分かってるってロトム、もう少ししたら寝っから!」
ゴスッ、ゴスッとユウヤ君の頭に体当たりしてる、喋る機械。
あれって……もしかしてスマホ? えっ、ガラル地方のスマホって浮いたり喋ったりできるの!?
「そ……そのスマホどういう仕組みで宙に浮いてるの!? しかも喋るなんてスゴイ!」
「? シンオウって、スマホロトム無ぇの?」
ユウヤがキョトンとした顔で、そう聞いてくる。
ロトムはシンオウにも生息してるらしいけど、スマホに組み込もうって発想がスゴイ……。
「シンオウだと電話はポケモンセンターとかのテレビ電話くらいだし、ポケモン図鑑やタウンマップは専用の端末があるんだよ。
スマホを持ってる人もいるとは思うけど、あんまり見たことないかな」
「へぇ……シンオウのトレーナーって、結構色々持ち歩くんだな。
こっちだとポケモン図鑑もタウンマップも、スマホロトムに内蔵されてるぜ」
べ、便利過ぎて羨ましい……!
シンオウでも流行らないかな、スマホロトム……!
『ちょっと! ボクは"寝なさい"って言ったロ!
お喋りを続けて良いなんて言ってないロト!』
「分かった、分かった! 今度こそ寝るって!」
再びユウヤ君の頭に体当たりを繰り出し始めたロトム。
さっき"就眠予定時間"って言ってたから、本当はもっと早く寝る予定だったのかな……。
「うるさいぞ貴様ら! 夜くらい静かにできないのか!」
「いや、晶も十分うるさいって。つーかあのロトム、さっきからユウヤしか狙ってなくね?」
『女の子に手を上げる趣味は無いロト』
「おや、意外と紳士的なロトムなんだね」
『でもまぁ、確かにそろそろ寝た方が良いわね。夜更かしはお肌の大敵よ、ユイちゃん』
「はーい。じゃあみんな、ボールに戻って」
碧雅たちをボールに戻した後、焚き火を消して寝袋の準備をする。
ユウヤ君に"おやすみ"と言ってテントに入り、そのまま夢の世界に入っていった。
そしてその翌日−−。ユウヤ君の案内でエンジンシティの観光を満喫し、前回来た時に入ったカフェでお茶をした。
その後に空港まで送ってくれた彼らと、"また会おう"という約束をして。
新しくできた友達との思い出を胸に、私たちはシンオウへと戻っていくのだった。
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