03

「お願いね、白恵! 晶!」

ユイが繰り出したのは、晶君と白恵君のコンビ。

さっきまでダークホースだと話していたあの子が1番手なのは、ちょっと意外だなぁ。

「疾風、銀嶺! アドミッション!」

対してナオトが繰り出したのは疾風と銀嶺。

スピードが自慢の疾風と、重量級の銀嶺という組み合わせだ。どんなバトルになるんだろう?

「晶、竜の舞! 白恵は願いごと!」

『はーい』

『良いだろう』

晶君が空中で優雅に舞い、白恵君がその下でお祈りするように手を合わせる。

アタッカーのステータスを上げつつ、アフターフォローを用意しておく作戦なのかな。

「あの2人の要は白恵だな……。疾風、白恵に鋼の翼!」

『あぁ……!』

疾風が両の翼を銀色に光らせながら、白恵君に向かって突っ込んでいく。

晶君はまだ舞っている途中で咄嗟に動くこともできず、白恵君は後ろの方へ投げ出されてしまった。

『あ〜れ〜』

「白恵!」

「布石を打つぞ、銀嶺! ステルスロック!」

『そうら!』

大きな岩が、白恵君と晶君を囲むように漂い始める。

完全に退路を絶たれた訳では無いにしても、これでは容易にポケモンを交代させることもできない。それがユイへプレッシャーを与えていた。

『ステルスロックか。厄介な技を使ってくれる……』

「でも、交代しない限りダメージは無いんだよね?
リスキーかもしれないけど、このまま行くよ!
晶、疾風君にドラゴンクロー!」

「疾風、上空へ逃げろ! 晶を引きつけるんだ!」

疾風が空高く飛び上がり、晶君がそれを追う。青く光り輝いた爪は空を切った。

でも晶君は諦めることなく疾風へ向かっていく。ユイも空中戦に気を取られ、晶君を注視していて。

その下で銀嶺が黙々とロックカットで素早さを上げていることに、彼らは気付けなかった。

「今だ、銀嶺! 白恵にアイアンテール!」

「えっ!? わ、ちょっ……白恵、指を振る!」

『わぁー! ちっちっちっちー』

ロックカットで素早さが上がっているとはいえ、白恵君が指を振る時間は十分ある。

さて……今回は何の技が飛び出してくるのか。

『いっくよー。 ふぁいあー!』

繰り出されたのは炎タイプの技の火炎放射。鋼タイプの銀嶺には効果は抜群だ。

灼熱の炎が銀嶺の尻尾にぶつかっていった。

「振り払え!」

銀嶺が尻尾を地面に叩き付け、火炎放射を振り払う。

その余波で白恵君がよろめいたところでアイアンテールがクリーンヒットした。

『きゃあー』

『マメ助!? ……チッ、上空に逃げたのは大顎飲兵衛から注意を逸らすためか』

『白恵が1番得意とするのは"癒すこと"だ。なら銀嶺の素早さを上げて回復供給路を断つ方が早いだろう』

『やってくれる……! だが、少し遅かったようだな』

晶君と疾風がバトルフィールドに降りてくる。

白恵君も抜群技を喰らいながらも、まだ少し体力が残ってるみたいだ。もしかしたら、あの時の"願いごと"が間一髪で発動したのかも。

「疾風君は要注意だね。白恵、命の雫で回復して!」

『はーい』

「そうはさせない! 疾風、ブレイブバード!」

『僕たちがそう簡単に近付けさせると思うな。……主!』

「うん、行くよ晶! 白い霧!」

ユイの指示で白い霧を発動させた晶君。そして翼をはためかせることで、霧が疾風を包む。

本来あの技は状態異常を防ぐための技だけど、使いようによっては目眩しにもなる。

案の定疾風は視界が白く染まったことで動きを止めてしまった。

『クッ……! 目眩しか!』

「晶、霧の中に突っ込んで! ゴッドバード!」

白恵君が回復している隣で、晶の体が白く輝いていく。

そしてそのまま霧の中へ突撃し、疾風はバトルフィールドに叩き付けられた。

「大丈夫か、疾風!」

『ぐっ……ぅ……!』

『ダメージがデカいな。だがゴッドバードをあんな短時間で放つたぁ……どんな小細工しやがった?』

『……まさか……。パワフル、ハーブか……?』

『あぁ?』

パワフルハーブ……。私も前に疾風から聞いたことがある。

ゴッドバードやソーラービーム……。つまり"エネルギーを貯める必要がある技"を、速射できるようにする道具。

入手経路が少なくてお店にもあまり出回ってないらしく、もし売っていてもかなりの値がする代物だって。

まぁそれはそれとして。竜の舞で高められた攻撃力が、着実に疾風の体力を削り取っている。

対して晶君は未だノーダメージ。ナオトは……どう出るんだろう?

「晶、疾風君にドラゴンクロー!」

「銀嶺、疾風を守れ! 疾風はそのまま羽休めだ!」

銀嶺が疾風を覆うようにとぐろを巻き、鉄壁の要塞が完成する。

元々ハガネールは物理技に対する防御力がとても高い。回復が必要な疾風にとってこれほど頼もしいことはないだろう。

「もう1度ドラゴンクロー!」

足の爪を光らせた晶君が、銀嶺の頭部目掛けて突き進む。

それを見たナオトはニヤリと笑った。

「晶なら真っ直ぐ突っ込んでくると思っていたよ!
銀嶺、そのまま口で受け止めろ!」

「えっ!?」

グワッ! とその大きな口を開き、銀嶺が晶君を捕まえる。

ナオトはそのまま雷のキバを指示し、晶君の全身に電気が迸った。効果抜群じゃないとはいえ、ダメージは決して小さくないはず。

『グッ! ……ク、ソッ……!』

「晶! 白恵、もう1度命の……」

「晶を投げ飛ばせ!」

『悪く思うなよ、晶の小僧ォ!』

ブォン! なんて音が聞こえてきそうな勢いで、銀嶺が晶を投げ飛ばす。

命の雫が発動する前に白恵君とぶつかってしまい、回復の阻止に成功した。

疾風はその間の羽休めで、ある程度体力が戻ったみたいだ。

『銀嶺、もう良いぞ。おかげで落ち着いて回復できた』

「……よし、一気に畳み掛けるぞ! 銀嶺、白恵を囲め!」

銀嶺が素早い動きで白恵君を囲み、そのまま長い体を使って拘束する。

ユイが白恵君を助けるよう晶君に指示を出したものの、雷のキバを受けた白恵君は目を回して倒れた。

『クッ、マメ助がやられたか……!』

『よそ見をしている暇は無いぞ、晶』

いつの間にか背後へ接近していた疾風に、咄嗟の対応が遅れてしまった晶君。

その一瞬の隙を突かれ、至近距離からのブレイブバードを受けて戦闘不能になった。


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