10
お屋敷に戻ってそのまま食堂へと向かった私たちを迎えてくれたのは、ニコラさんとシャーリーだった。
「お帰りなさいませ、皆様。緋翠様たちが食堂でお待ちですよ」
「うん、ただいまシャーリー。
でも、いつもみたいに話しかけてくれたら良いのに。友達なんだし」
「い、今は仕事中ですので……!」
慌てた様子でそう返すシャーリーを見ながら、隣に立っているニコラさんがクックッと笑った。
「今回の件が終わったら、そん時ゃまた"友達"に戻れば良いじゃねぇか。
姐さんもお疲れっす」
「あ、姐さん……?」
誰のことを呼んでいるのか分からず、首を傾げる。
"もしかして私のこと?"と思いかけた時、フユカがスッと前に出た。
「今回のことは全てお嬢様方のためですよ、ニコラさん。では皆様、どうぞこちらへ」
(姐さんってフユカのことだったの!?)
ど、どういう経緯でそうなったのか少し……いや、かなり気になる。
でもみんなを待たせる訳にも行かないしね。今度聞いてみよう。
「みんな、お待たせ」
食堂に入ると既に座って待っていた碧雅と晶、緋翠の3人が一斉にこっちを振り向く。
緋翠が"お帰りなさいませ、マスター"と声を掛けてくれた。碧雅と晶は私を見て微かに目を見開いている。
「おい、ちんちくりん。何だその服は」
「あぁ、これ? 今日着てた服の袖が汚れてるから、って代わりに貸してくれたんだ。
フユカが選んでくれたんだけど……変かな?」
「……まぁ、たまには夢を見るくらい良いんじゃないの」
「フン……せいぜい"服に着られる"、なんてことにならないようにするんだな」
あの反応は素直に喜んで良いんだよね……?
"似合ってない"って言われないだけ良しとしよう、うん。
フユカに席へと案内され、各自が今日何をして過ごしていたかを話す。
碧雅は書斎でずっと本を読んでいたようで、白刃君に勧めてもらったミステリー小説が面白かったって言ってた。
緋翠もまた、ティータイムの後でシャルルさんに紅茶のブレンドの仕方とかレシピとか色々教わったみたい。"シンオウに戻ったら早速試してみなくては!"っていきいきしてる。
紅眞はジャンさんと料理談義で盛り上がったみたいで、彼も色々とレシピを教えてもらったそうだ。
晶は璃珀の付き添いの下、シャーリーのガチゴラスや他の執事さんとバトルしたらしい。
思わず"えっ、まさか全員と全力のバトルしたの?"と聞けば、"模擬戦なのだから肩慣らし程度で抑えるに決まっているだろう"ってすごく冷めた目で見られた。そりゃそうか……。
「そういえば、マスターはあの後どちらに? 町の散策とのことでしたが……」
「町の郊外にあるストーンサークルとか、列石群を見に行ったよ。シンオウとはまた違う歴史があるんだなーって感じたかな」
「へぇ、ユイでもそういうの感じるものなんだ?」
「ちょっと碧雅、それはどういう意味カナ?」
「前にアローラ行った時、向こうの初心者用ポケモンしか眼中に無かったでしょ」
「そ、そんなことないよ!」
「皆様、お食事のご用意ができました」
ジャンさんの声が静かに響くと同時に、フユカと白刃君を含めた数人の使用人さんが配膳してくれる。
最初に運ばれてきたのはトマトを使った料理だった。この白いのは……チーズかな?
「おい、まさか夕食がこれだけと言うんじゃないだろうな?」
「晶君、フルコースは順番に料理を出していくものなんだ。心配しなくてもちゃんとメインディッシュも出てくるよ」
「……フン」
「こちらは前菜のカプレーゼでございます。
厳選に厳選を重ねた最上級のトマトと、こちらも最上級のモーモーミルクで作られたフレッシュチーズを使用しております」
全員で"いただきます"と言って食べ始める。
カプレーゼを口に運ぶと、トマトの瑞々しさが弾けた。フレッシュチーズも滑らかな口当たりで、"美味しい"の言葉しか出てこない。
「う、美味っ……。何だこれメチャ美味っ!」
「トマトとフレッシュチーズの酸味が上手く調和しているね」
「璃珀様、よろしければ白ワインをお持ちしましょうか?」
「あぁ、それは良いかもしれない。是非いただこうかな」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
シャルルさんが食堂を後にするのを静かに見送る。
このお屋敷、お酒もあるんだ……。私はまだ飲めないけど、大人になったら良さが分かるようになるのかな。
……成人したらレイナたちも誘って飲み会とかやってみたいかも。
「ねぇユイちゃん、ぼくもわいんのめる?」
「白恵はまだ子どもだからダメだよ。私たちの中でお酒飲んでも良いのは璃珀と紅眞だけだしね。
……そういえば、紅眞はお酒飲んでみたいって思わないの?」
「んー? まぁ気になるっちゃ気になるけど、俺は良いわ。
料理に影響出ちまったら、俺としてはそっちの方が問題だしなー」
「では未成年の方と紅眞様にはソフトドリンクをご用意いたします。そちらでいかがでしょうか?」
「すみません、お願いします」
次から次へと運ばれてくる料理は、どれも高級フレンチみたいでとても美味しかった。
厨房の方へチラリと視線を投げると、そこでは緑炎さんとジャンさん、龍矢君が腕を奮っていて。
ふとした瞬間に目が合うと、目を伏せながら静かに会釈をしてくれた。
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