08

「そういえば、他のみんなはどうしてるの?」

椅子に座った後、ここにいないメンバーの動向が気になって2人に聞いてみる。

「みゃーちゃんとこーちゃんは、ごほんよみにいったよ」

「晶は"あのガチゴラスと戦ってみたい"と言って、シャーリー様を探しに行きました。璃珀は彼の付き添いです」

……うん、大体は予想通り。特に晶。

ガラル旅行から戻った後も、"次ガチゴラスに会う時は僕に戦わせろ!"って言ってたもんね。

白熱し過ぎてシャーリーや他の使用人さんたちに迷惑掛けてないと良いけど。

「お嬢様、お茶を持って……じゃなかった。お持ちしましたー」

「あ、ありがとう悠冬君」

悠冬君、今"持って来たよ"って言いかけたよね?

慣れないなりに敬語の勉強を頑張ったんだろうことが伺えて、少し口角が上がるのを感じた。

「……え」

悠冬君の持って来てくれたティーセットを前に、私は思わず生唾を飲む。

だって……だって……!



「お、オシャレ過ぎて食べるのがもったいない……!」



目の前のテーブルにはフィナンシェやマカロン、ラングドシャといった高級感の漂うお菓子が綺麗に並べられている。

「……おや、この茶色のお菓子は何でしょうか? 見たことがありませんね」

「そちらはカヌレでございます。表面の香ばしさと中のモチモチとした生地が人気のスイーツですよ」

「おいしそーだね」

「うん、それにすごく綺麗に作ってある。フユカ、これもしかして緑炎さんが?」

フユカの手持ちの中で料理といえば、真っ先に緑炎さんが思い浮かぶ。

クールな彼がこんな繊細なお菓子を作ったと思うと、(良い意味で)ギャップを感じずにはいられない。

「いいえ。パティシエ・龍矢が、お嬢様方のためにお作りしたスイーツでございます」

こ、これ全部龍矢君が作ったの!?

それはそれで、良い意味でギャップが……。

私たちと話をしている間も、フユカは紅茶を用意する手を止めない。

やがてテーブルに置かれたティーカップに紅茶が注がれる。砂糖は入れてないはずなのに、華やかな甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「モモンの実のフレーバーティーでございます。お召し上がりください」

「では……いただきます」

「い、いただきます……」

「白恵坊っちゃまにはこちらを。
特定の牧場でのみ作られる、最上級のモーモーミルクをホットでご用意いたしました」

「わーい、あったかいもーもー!」

ほかほかと湯気の立つティーカップを手に取って、紅茶を1口。

ふんわりとモモンの甘い香りと香ばしい茶葉の香りが広がる。

渋味も無くてとても美味しい。何杯でも飲めちゃいそう。

「お味はどうですか?」

「……うん、とっても美味しい!」

「えぇ、こんなに美味しい紅茶は初めてです……!
フユカ様、後で銘柄を教えていただけないでしょうか?」

「こちらの紅茶は非売品ですので、後ほどレシピをお教えいたしましょう。
それでよろしいでしょうか、緋翠様?」

「はい、是非!」

「白恵坊っちゃま、モーモーミルクのおかわりいる? じゃなくて、えっと……お入れしましょうか?」

「るーちゃん、ありがとー。くるしゅーない」

「それはちょっと違うんじゃないかな……」

モーモーミルク(ホット)をおかわりし、カヌレを手に取ってパクリと食べる白恵。

"そとはかりかり、なかはもちもちでおいしーね"って言いながら食べてるから気に入ったんだろう。

綺麗な裏庭と、美味しい紅茶にお菓子。夢のようなティータイムはあっという間に過ぎていった。



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