06
(……)
未だに頭の整理が追い付かず、つい助けを求めるようにフユカを見た。
フユカも私の視線に気付いたのか、"いかがなさいましたか?"と尋ねてくる。
いつもの元気をもらえるような明るい笑顔は鳴りを潜め、今は大人っぽい穏やかな微笑みを浮かべていた。
「……ね、ねぇフユカ。今日の私の服、そんなに変かな……?」
「滅相もございません、そちらも大変お似合いですよ。ですが……」
フユカは私の真正面に回ると、"失礼いたします"と言ってそっと私の右手を取る。
袖口によく見ないと分からないほど小さな汚れが付いていることに気付いた。もしかして……さっき食べたケーキに乗ってたマゴの実のジャム?
「お召し物が汚れておりますので、どうぞこちらにお着替えください。……雅」
「えっ……雅ちゃん!?」
いつの間にそこにいたのか、メイド服を着た雅ちゃんが部屋に入ってくる。
和服姿も良いけど、メイド服の雅ちゃんもかわ……じゃなくて!
アタフタしている私を尻目に、雅ちゃんはコクリと頷いて私に何かを差し出す。
ふんわりとした海色のジャンパースカートと、胸元の大きなリボンが目を引く白のブラウス。
スカートの裾にはさりげなくフリルがあしらわれていて、とても上品かつ可愛らしいデザインの洋服だ。
ほ、ホントにこれを着るの!?
こんな素敵な衣装、映画やドラマでしか見たことないよ!? 本物のお嬢様の服じゃん!
「ではお嬢様、お着替えを」
「ま、待って! タイム!
こんなに可愛い服、私には似合わないっていうか……着こなせる自信が無いというか……!」
「お嬢様に1番お似合いになるものを厳選したつもりでしたが……お嫌でしたか?」
さっきまでの穏やかな表情が嘘のように、今度は眉尻を下げてシュンと申し訳なさそうにするフユカ。
……う、ぐっ……。フユカともそこそこ付き合いが長いけど……。
私がそういう顔に弱いって知っててやってるね絶対!? 大正解だよ!
でもせっかく私のために選んでくれたんだし、着ない訳にもいかないよね……。
「い、嫌じゃない……です……」
「……それはよろしゅうございました」
クスリと笑ったフユカに促されるがまま、手渡された衣装に袖を通す。
ジャンパースカートは首の後ろで結ぶようになってるみたいで、さすがに自分ではできないからフユカにしてもらった。
服を着替えた後はベレー帽を被り、靴下をタイツに履き替えてロングブーツに脚を通す。
姿見に写る自分の姿は、まるで本物のお嬢様そのものだ。
「すごい、サイズもピッタリ……!
あの……ありがとうね、フユカ。さっきはあぁ言ったけど、本当はこういう服着てみたかったんだ」
「お気に召していただけたようで何よりでございます。とてもよくお似合いですよ」
ちょっと意外だったけど、フユカって演技が上手なんだなぁ。
執事さんになりきる彼女に触発されて、少しだけ私もお嬢様っぽく振舞ってみたくなった。
「えっと……ごきげんよう、フユカ。
今日は私を、エ……エスコートしてくださる?」
スカートの裾を軽く持ち上げて会釈してみる。
雅ちゃんの口調を真似してみたつもりだけど、間違ってはないよね?
「フフッ……はい、もちろん。今の私は、ユイお嬢様の執事ですので」
穏やかな笑顔のまま、胸に手を当ててフユカが私に一礼する。
あと、やってみてから気付いた。これ結構恥ずかしいね!?
平然としていられるフユカがすごく感じるよ……。白刃君のお姫様扱いで慣れっこなのかな?
部屋を出る前に雅ちゃんにメイド服を着ている理由を聞いてみたけど、"まだ秘密ですよ"ってはぐらかされてしまった。
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