05

「到着いたしました。足下にお気を付けください」

「はい。ルイさんも、運転ありがとうございました」

「もったいなきお言葉、大変光栄にございます。
……執事長、私は車庫へ行って参ります」

「うむ、頼むぞ」

「それではユイ様、私はこれで」

ルイさんは私に向かって恭しく一礼すると、車を戻すために車庫へ向かった。

ジョゼフさんについてエントランスに入ると、メイドさんたちが一斉にお辞儀をする。その中にシャーリーの姿もあって、小さく手を振ると少し照れくさそうにはにかんでいた。

でもやっぱり、フユカの姿は見当たらない。

今度はメイド長のエルザさんについていき、今回の宿泊部屋に案内される。

"こちらでお待ちください"という彼女の言葉の通りに待っていると、扉を軽くノックする音が聞こえた。

「はい、どうぞ!」

「失礼いたします」

扉を開けて入ってきたのは、メガネをかけた銀髪の男性−−シャルルさんだった。

「あっ、シャルルさん。こんにちは」

「はい、お懐かしゅうございます。
ユイ様、本日は当家へお越しいただき誠にありがとうございます。
ご滞在の間、貴女様のお世話をさせていただく執事を連れてまいりました」

執事さんかぁ……。前に来た時はメイドさんにお世話になったから、なんか新鮮な感じ。

……と思っていたのも束の間。開いた扉の奥から現れた人物を見て、私は思わずその場で立ち上がった。



「え……っ。……えっ、フユカ!?」



少し癖のある黒髪のポニーテール。深いダークグレーの瞳。

間違いなくフユカ本人であるはずなのに、執事服を着ているだけでこうも狼狽えてしまうのは何故なのか。

っていうか、なんで彼女が執事さんに!?

「お……おおぉ!? 結構似合ってんじゃん、フユカ!」

「いつものフユカさんもハツラツとしていて魅力的だけど、今日は凛々しさを感じるね」

「フユカちゃん、かっこいーよ」

「呑気に言っている場合か、貴様ら。おい平民女、どういうことなのか説明しろ」

フユカは晶の声に動じることなく静かに微笑むと、私の前で片膝をついて一礼した。

「お懐かしゅうございます。この度お嬢様のお世話をさせていただく、フユカでございます。
ご滞在の間、何なりとご希望をお申し付けください」

「お、お嬢様ぁ!?」

わぁ、なんかすごく様になってる……じゃなくて!

情報量が多すぎて、私の頭はパニック状態なんですけど!?

「町の郊外にあるとはいえ人の家なんだから落ち着きなよ。近所迷惑」

「しかしフユカ様、そのお姿は一体……?」

「ご覧の通りです。今の私はユイお嬢様専属の執事ということにございますよ、緋翠様」

「なっ……! 貴女はマスターのご友人です!
私に"様付け"などしなくても良いのですよ、フユカ様!」

「そういう訳にも参りません。執事としてお嬢様にお仕えするのです。
お嬢様のお手持ちの皆様にも敬意を払うのは同然のこと」

「で、ですが……! ……ううっ……」

お、おぉ……緋翠がすごく動揺してる……。

普段は自分が様付けなんてされることがないから、気持ちは分かるけど……。

前にルイさんと裏庭で話をした時を余裕で上回ってるレベルだ。

動揺しすぎて若干顔が赤くなってるよ、緋翠。

「……経緯は全く分からんし興味も無いが、状況は分かった。
つまり今この屋敷にいる間、僕たちはお前をこき使うことができる……。そういうことだな、平民女?」

「ちょっと晶、言い方ァ!」

近くで白刃君が聞いていないかヒヤヒヤしながら、晶に向かって一喝。

でも姿を見せない辺り、別の場所にいる可能性が高いと見て胸を撫で下ろした。

間が良かったね晶、白刃君がいたら確実に怒られてるよ!

「さすがに俺たち全員を1人で、っていうのは難しいんじゃないかな。
俺たちには別の執事さんがついてくれると思うよ」

「まぁ、そうなるよなー。んじゃフユカ、ユイのこと頼むぜ」

「はい、お任せを。ではまず、お嬢様のお召し替えをお手伝いいたします。
シャルルさん、碧雅様たちを宿泊部屋へお連れしていただけますか?」

「はい。それでは男性の皆様はこちらへどうぞ」

「えっ!?」

まさか着替えさせられるとは思わず、私は驚きのあまり開いた口が塞がらない。

今日の私の服、そんなに変!?

「じゃーね、ユイちゃん」

「ちょ、みんな待っ……」

「僕らが何を言ったところで状況は変わりやしないよ。諦めてフユカにお世話されな」

「フユカ様がいらっしゃるので大丈夫だとは思いますが……。
マスター、もし何かあれば私を呼んでください」

「それじゃあご主人、また後でね」

パタンと扉の閉まる音が、いやにハッキリと響いた気がした。



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