04

カロス行きの飛行機に乗り、ミアレ空港の改札を出る。

キョロキョロとフユカを探すけど、彼女の姿はどこにもない。

「平民女め。僕たちを呼びつけておいて遅刻とは良い度胸だな……」

「ダメだよ晶、そういうこと言わない。
っていうか"招待された"んであって、呼び出された訳じゃ……って、あれ?」

私たちの方に向かって歩いてくる、1人の男性。

あの人って、確か……。

「ご機嫌麗しゅうございます、ユイ様。お迎えに上がりました」

「ジョゼフさん!? こ、こんにちは……」

やっぱり……レオンハルト邸の執事さんのジョゼフさんだ!

彼は私の荷物に目を止めると、"お預かりいたします"と言ってさも当たり前のようにカバンやお土産を持ってくれた。

「では、参りましょうか」

「えっ? で、でもまだフユカが……」

「ご主人、もしかしたらフユカさんは現地で待ってるのかもしれないよ」

璃珀がそっと私に耳打ちする。

そっか。先にレオンハルト邸で待ってるなら、ここにいないのも納得かも。

「またあのカッケー車に乗れるのかー。前回ボールん中だったし、今日はシートに座りてぇなー!」

「もちろんですとも。他のポケモンの皆様も、道中ごゆるりとお過ごしください」

「わーい。いこ、ユイちゃん」

「う、うん……。
すみません、ジョゼフさん。お世話になります」

白恵に手を引かれながら空港を出て、駐車場に停められたリムジンに乗り込む。

運転席に座っていたルイさんに挨拶した後、レオンハルト邸に向けて走り始めた。

そういえば前回はアレックスさんの運転で、その前はシャルルさんの運転だったっけ。

(でも……)

どっちの時も隣にフユカが一緒だったから、私たちだけでリムジンに乗ってるっていうのはちょっと落ち着かないかな。

「マスター、大丈夫ですか? 随分と緊張されているようですが……」

「……ありがとう緋翠、大丈夫だよ。
いつもはフユカも一緒だったから、ちょっと新鮮なだけ」

「皆様、よろしければこちらをどうぞ」

そう言ってジョゼフさんがテーブルに置いたのは、ケーキとお茶だった。

紅茶……にしては色が薄めだから、ハーブティーかな?

「先程緋翠様が仰った通り、何やら緊張なさっているご様子でしたので……。
リラックス効果のあるハーブティーでございます。碧雅様はアイスティーでお召し上がりください」

「あ、ありがとうございます」

「どうも」

「白恵様にはこちらを」

「もーもー! おじちゃん、ありがとー」

(い、至れり尽くせりだ……)

緋翠よりも早く私の緊張に気付いたり、碧雅や白恵に合わせて飲み物を変えてくれたり。執事さんって、すごい。

「ん、このケーキ美味っ!」

「ハーブティーも良い香りですね。ジョゼフ様、後で銘柄を聞いても良いでしょうか?」

「……フン、悪くない」

ハーブティーのおかげで緊張も解け、外の景色を楽しむくらいには余裕が出てきた。

……そういえばあの時の白恵の言葉は、どういう意味だったんだろう?

「ねぇ、白恵。あの時私に"気を付けて"って言ってたけど……あれってどういう意味?」

「?」

私の言葉に、白恵がコテンと首を傾げる。

数秒の間不思議そうに私を見た後、ほんの少しだけ口角を上げた。

「まだ、ないしょ」

「えっ、どうして?」

「フユカちゃんにあえばわかるよ。ユイちゃん、きゅんきゅんしちゃう?」

どこでそんな言葉覚え……あぁ、この前見てたバラエティー番組か。

だけど、余計に白恵の考えてることが分からなくなってきたな。

さっきの首を傾げる仕草には確かにキュンとしたけれども。

「フユカさんに会えば、白恵君の言葉の意味も分かるんだろう?
俺の記憶が正しければ、レオンハルト邸はもうすぐだ。その時が来るのを楽しみにしてようじゃないか」

「だなー。それに、なんかサプライズ受けてる感じがして良いんじゃね?」

「それもそう、かも……?」

「単純な頭で羨ましい限りだな、ちんちくりん」

「やめなよ、晶。ユイの単純思考は今に始まったことじゃないんだから」

「ねぇ碧雅、それフォローしてるのか乏してるのかどっち?」

ワイワイガヤガヤと賑やか過ぎるくらいの時間を過ごしながら、車はセキタイタウンへと進んでいく。

白恵がモーモーミルクをおかわりしたところで、前方にレオンハルト邸が見えてきた。


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