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「恐れながら姫、1つお願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」



事の発端は、白刃の何気ない一言だった。

あまりにも深刻そうな彼の声音に、本のページをめくる手をピタリと止める。

一体どうしたというのか。まさか、どこか具合でも悪いのだろうか。

そんな一抹の不安を感じながら、私は彼に向き直った。

「……白刃が私にお願いごとなんて珍しいね。どうかした?」

「ご心配をお掛けするほどのことではないのですが、その……。
姫、しばらくの間レオンハルト邸で修行を積みたく……」

「修行? しかも、レオンハルト邸で?」

修行、レオンハルト邸−−。彼の口から飛び出してきた2つのワードに、私は思わず首を傾げる。

レオンハルト邸で何の修行をするんだろう? 考えられるとすれば、料理くらいだけど。

「ジャンさんに料理でも教わるの?」

「確かに初めはそれも考えましたが……料理は緑炎、製菓は龍矢が得意とするところですので。
私にできることと言えば、姫の御身をお守りすることだけ。ならばせめて、貴女をお側でお守りするに相応しい立ち居振る舞いを身に付けたいのです」

白刃にはもう十分過ぎるほど良くしてもらってると思うんだけど、相変わらずだなぁ。

……というのはこの際置いておく。私にとっては十分に見えても、本人にとってはまだ納得が行かない部分があるんだろう。

「一応連絡は取ってみるけど……。でも向こうも忙しいと思うよ?」

「はい、その点は弁えております。
今すぐにどうこうという訳ではありませんので、先方の都合の良い時で構いません。
本来であれば私自身が願い出るべきだというのに、姫のお手を煩わせてしまい……申し訳ありません」

「あぁうん、それは気にしないで。
予定があるんでしょ? あとは私で話付けとくから、そっちを優先してあげてよ」

「ありがとうございます」

失礼いたしますと言って部屋を出ていく彼の背中を見送る。

私もそのまま部屋を出て、レオンハルト邸に電話を掛けた。



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