03
ポケモンセンターに戻った後、私はフロントのテレビ電話に向かった。
カバンの内ポケットに入っているメモを取り出し、そこに書かれている番号へとダイヤルする。
メモに書かれていた電話番号……それはシンオウ地方・ノモセシティのポケモンセンターのものだ。
以前シンオウへ行った時にあのトレーナーから渡されたもので、要らないって断ったはずなのにいつの間にか入っていた。
おそらくではあるけど、彼女の手持ちである彼がこっそり忍ばせたんだろう。
3回ほどコール音が鳴ったところで、電話が繋がる。
向こうのジョーイさんにあのトレーナーの名前を伝えて、待つこと数分。
バタバタという音をさせながら、"あのトレーナー"が姿を現した。
"お待たせしました! ……って、ハル!?"
向こうの画面に映っているであろう私の姿を見たあのトレーナー……ユイが海色の瞳を大きく見開く。
走ってきたのか、肩で息をしているのが画面越しに見えた。
「……私がお前に電話したら悪い?」
"わ、悪くないよ! むしろ嬉しい!
次いつ会えるか分からないって思ってたから……。
でも、よくここにいるって分かったね"
「返したはずのメモがカバンに入ってた……それだけ。
そんなことより、お前"ポフィン"って知ってるでしょ?」
ユイは"ポフィン?"と一言呟いて、小さく首を捻る。
すると次の瞬間には"あぁ、あれね!"と納得したような顔になった。
"ポケモンのお菓子のことだよね? こっちにいる私の友達がたまに作ってくれるんだ。
もしかしてハル……コンテストデビューするの!?"
「別にお前の友達にも、コンテストにも興味無い。
翠姫がポフィンを食べてみたいって言ってるから、お前に聞いてるだけ」
そっか、そっかぁと言いながら、何故か嬉しそうにしているユイ。
どうでも良いから早く本題に入って欲しい。
"じゃあさ、またシンオウにおいでよ!"
「……は?」
満面の笑みでそう言うユイに、私は呆れたような声しか出なかった。
脈絡がまるで無い上に、何故そこでシンオウに行くなんて話になるわけ?
「私はポフィンのことを聞いてるんだけど」
"うん、ちゃんと関係してる話だよ。
ヨスガシティっていう街に、ポフィン作りの教室があるんだ。一緒に行ってみない?
レシピさえ覚えれば毎回取り寄せなくて済むし、良いと思うんだけど"
「……」
確かにイッシュで売られていない以上、シンオウから取り寄せるしか方法は無い。
かといって食べたいと思う度に取り寄せていたのでは日数が掛かるし、何よりコストがバカにならない。
翠姫自身もレパートリーを増やしたいって言っていたし、ここはユイの話に乗るしかないのだろう。
「……ハァ、分かったよ」
"じゃあヨスガシティの空港で待ってるから、日時が決まったら教えてね。
会えるの楽しみにしてるよ!"
「翠姫のためにシンオウに行くんであって、お前に会いに行く訳じゃないから」
"フフッ、分かってまーす。じゃあ、またね!"
その言葉と同時に通話が切られ、プツンという音を立てて画面が真っ暗になる。
翠姫はユイに会いたがっていたし、この話をしたら喜びそうだな。
(そう、これはあくまで翠姫のため……)
くるりと踵を返し、宿泊部屋へと歩を進める。
翠姫の笑顔を思い浮かべながら、足早にフロントを後にした。
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