02
昼食を済ませた私は、意気揚々と歩いている翠姫と手を繋いでデパートへ入る。
人が多く集まる場所ということもあって、手短に画材を調達して早々に食品売り場へと向かった。
「して、甘味の売り場は……。うむ、あっちじゃな!」
「翠姫、そんなに引っ張らなくてもお菓子売り場は逃げないよ」
『たかが菓子1つにその意欲は何なんだ……』
私の手を握ったまま小走りで進んでいく翠姫の後ろをついて行き、何とかお菓子コーナーにたどり着く。
でもショーケースに並べられているのは、フルーツタルトやガトーショコラといった洋菓子がほとんど。
あの雑誌に載っていたカラフルなお菓子は見当たらなかった。
「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」
「店主よ、ここでポフィンとやらは売っておらぬのか?」
「ポフィン、ですか? ごめんなさい、イッシュ地方では取り扱いが無いんです」
「なぬっ!?」
隣にいる翠姫から"ガンッ!"という音が聞こえたような気がした。
「と、取り扱っておらぬとは……」
「ポフィンはシンオウ地方で一般的なお菓子ですね。
イッシュ地方はポケモンコンテストが無いので、地元のトレーナーさんで買う人はほとんどいないんです」
「……シンオウ?」
その言葉を聞いて、あるトレーナーの顔が脳裏を過ぎった。
私とは正反対の、黒髪を持つあのトレーナー。
(何か、知ってるかも……)
しょんぼりと肩を落とす翠姫に声を掛け、デパートを後にする。
連絡を受けたあのトレーナーが、驚きつつも満面の笑みで応じる様子が容易に想像できて。
あくまで翠姫のためと自分に言い聞かせながら、微かに上がっている口角には気付かないフリをした。
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