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「ぬぅ……」



サンヨウシティのポケモンセンター。

私たちが借りている部屋の机で、翠姫が何かの雑誌を開いていた。

この位置からだとちょっと見えないけど、真剣な表情をしているから料理本だろうか?

「翠姫、何読んでるの?」

「む、ハルか。
つかぬことを聞くが、そなたは"ポフィン"なるものを食したことはあるか?」

「ポフィン……?」

翠姫の口から飛び出してきた聞き慣れない単語に、私は静かに首を捻る。

マフィンに語呂や響きは似ているけど、食べた経験はおろか聞いたことすら無かった。

「食べたことは無い、かな。私も今初めて聞いたし……。
で、そのポフィン? がどうかしたの?」

「木の実を使って作る甘味とこの雑誌に書かれていてな。
わらわも食事を用意する立場じゃ。少しずつでもレパートリーは増やしたい。
それに、たまには食後のデザートがあるのも良いであろう?
ゆえにハルよ、ポフィンを買いにデパートに参ろうぞ!」

甘味と聞いた紫闇の眉間に、少しだけシワが寄る。

彼は甘いものが苦手だからそういう顔になってしまうのも仕方の無いことだろう。

さっきまで翠姫が読んでいた料理雑誌を手に取り、視線を走らせる。

そこには赤・青・緑・黄・桃の5色のお菓子の写真があった。

色ごとに味が違うらしく、桃色のポフィン以外なら紫闇でも食べられそうだ。

人間が食べても問題ないみたいだし、何より翠姫のやる気を尊重してあげたい。

「じゃあお昼ご飯の後にデパート行ってみる? 私も新しい画材が欲しかったところだし」

「うむ! ではさっそく昼餉の支度に取り掛かるとしよう。
"善は急げ"という言葉もあるゆえな」

嬉々とした表情で、部屋に備え付けられたキッチンに向かう翠姫。

そんな彼女を見送りながら、私は視線を紫闇に移す。

紫闇は私と目が合うと、金色の瞳をスッと細めた。

『……何だ』

「紫闇もポフィン食べてみる? 甘いもの以外もあるみたいだよ」

『何度も言ってるだろ。俺は腹に入りさえすれば何でも良い。
甘いもんと劇物じゃなければな』

(……前のマトマ入りサンドイッチのこと、根に持ってるのかな)

あれ以来、食材で遊ばないように翠姫には言ってあるから大丈夫だと思うけど……。

また辛いものが入ってた時は私が食べれば良いだけだし。

ひとまず翠姫を手伝うべく、私もキッチンへと向かった。


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